同意の上じゃんか
白壁の質素な部屋に、50センチ四方ほどの小さな窓。隣には胸元から下はシーツだけを被せ、おだやかな表情で眠る萌香。
ビジネスホテルで迎える朝は、冷房のおかげで身体に重たい涼しさがあり、差し込む光はベッドからは僅かに手が届かぬ窓辺のカーペットに細い線を描く程度で薄暗い。
けれど、なんと心地のよい朝だろう。
異性との何らかの行為により、体内に溜まったものが排出された途端、思い悩んで重たくなった脳が嘘のように軽くなり、頭が冴えてくる。学問の成績を上げたければ恋愛はするなと世間では云われるが、実際はそうではない。複雑な事情を抱える俺が童貞のねっぷより成績が良い理由の一つに、こうして異性に触れる機会が多いとホルモンバランスが安定して、精神衛生上好ましく、冷静かつ適切な判断がしやすくなるからと考えている。もちろん、行為に及ぶのは相手の同意の上でなければ、社会的、良識的な呵責により、欲求不満時より情緒不安定になるだろう。
萌香は俺を、どう思っているのだろうか。
きっと萌香はいつもつるんでる俺ら七人の中で一番やさしいヤツだ。それでいて頭の回転が早く、行動力もある。
「いさむ~、おはよ~」
「おはよ。なんかその、悪かった」
「あはは~、なんで謝るのさ~。同意の上じゃんか~」
萌香は目を擦りながら、いつもの気の抜けた声でにこにこ笑ってみせた。何度も同じことを思うが、今回は彼女にどれほど救われただろうか。もう気持ちを傾けて良いのではと思いつつもある。
思考回路が綺麗に掃除されたと同時に、思い至ったことも。
「なぁ、無理して水菜を追う必要、あるのかな。俺の経験則で父親のところに戻ったら不幸になると思ったけど、実際はどうなんだろう」
「どうなんだろうって、その言葉からは水菜ちゃんと会って確かめたい気持ちが滲み出てるよ」
そう。その言葉が欲しかった。萌香は本当に人の気持ちを酌むのが得意だ。対して俺は、他人任せばかりのひ弱な強がり。萌香と俺では、あまりにも釣り合いが取れない。
「だがどういう顔して会えばいいんだ」
「それはケースバイケースだよ。水菜ちゃんが本当に不幸を感じていたら全力で助ければいいし、幸せなら遊びに来たよって言えばいいさ」
「遊びに来たって発想はなかった。萌香やっぱ頭いいんだな」
「あははー、勇がおバカさんなだけさ~」
お読みいただき誠にありがとうございます。更新遅くなりまして申し訳ございません。
本作は明日の正午12時に次話を公開予定です。




