不思議で温かい時間
まずい、このまま色欲を我慢しながらセミダブルベッドで夜を明かしたら乾涸びる。かといって絨毯で寝るのは汚いし、ネットカフェや野宿は怖い。
萌香が使ったばかりのバスルームで、勇はシャワーを浴びながら夜の過ごし方を悩んでいた。
いや待てよ。このシチュエーション、萌香が誘ってるようなもんだろ。なら我慢できなくなったら遠慮なく襲えばいいじゃねぇか。よし、そうしよう。幸いにも行為に必要なアイテムは持ち歩いてるし、問題ないだろう。
決断を下したところで、俺は素早く丁寧に全身を洗浄、備え付けのタオル、もちろん萌香の使用済みではなく未使用のものを選び水滴を拭き取り、トランクスを穿いて浴室を出た。
「勇、お風呂出るの早いね」
萌香は浴衣に身を包み、ベッドに掛けてテレビを見ていたが、俺はそのはだけた胸元と脚に、目が釘付けになって充血してきた。
やべぇ、風呂上がりだから血行いいし、呼吸が荒くなってきた。
「あぁ、誰かのせいで血が騒いでな。早く責任を取ってもらわないと精神崩壊しそうなんだ」
「あはは~、そうか~。でも私処女だし、最後までするのは恋人がいいな~」
「なっ!? 自分から誘っておいて生殺しか!? 襲うぞ」
「ふふっ、勇は可愛いなぁ。ぎゅ~うってしたくなっちゃうよ。立ちぱなしじゃつらいだろうから、お隣おいで?」
「だから襲うぞ!」
左手でポンポンとベッドを叩く萌香。正直、萌香の処女を捧げるポリシーとか構っていられないくらい脳が混乱し、全身に熱が滾っている。
「いいよ」
え? いま、なんと?
「それはつまり、俺を恋人にするって解釈でいいのか?」
だが俺には気持ちの整理がついていない。元はといえば水菜を迎えに来たのに、萌香を恋人にしちまうのか? そもそも本当のところ、俺は誰が好きなんだ? 夏海にしろ、水菜にしろ、目の前の萌香だって、結局欲情してるかその場の保護欲が動機で行動に及んでないか?
「それは、考えさせて。恋人になったとしても、たったいま付き合い始めていきなりはちょっとなぁ」
「じゃあ何が‘いいよ’なんだ」
「ふふ、言わせるの?」
普段のほほんとしている萌香だが、たまに妙に色っぽいときがある。きっと将来、かなりイイ女になるだろう。
「わりぃ」
「あはは、気にすんな。私が気持ちを軽くできるなら、嬉しいよ」
互いにそっぽを向きながら、タオル一枚の恰好でそっと、手を重ねる。暫し沈黙の後、肩を寄せ合い、向き合った。互いに頬が赤らんでいると確認したら、徐々にハートを重ね合わせる。鼓動は高鳴るのに、僅かに安堵の笑みがあふれ、不思議で温かい時間が始まった。
お読みいただき誠にありがとうございます。
更新遅くなりまして申し訳ございません。少しでも良いお話を送り出せるよう、完結に向けて着実に進めてまいります。




