開場前準備
ついに、ついにこの本を世に送り出す日が来てしまった。ロングヘアの少女がショートヘアの小さな年増女に好き放題される誰得同人誌。
しかも接客するのはロングヘアの私とショートヘアの知内さん。神威くんは雑用係で、ただいまうほうほ言いながら同人誌が詰まった段ボールを開封中。木古内さんは知内さんの命により他のサークルの本を買いに行かされる予定のため、黄色の蛍光ペンで会場マップに印を付けている。
いっそ本を焼いてしまおうかと思ったけれど、みんなで昼夜問わず苦労して創り上げたものを粗末にするのは気が引けた。
私たちのサークルは百合作品を販売すし島に配置され、両隣のサークルも同じく百合作品を販売する模様。お互いに隣接するサークルの方々に挨拶をして、一般参加者、つまり本を買いに来る人が入ってくる10時までに同人誌の平積みや釣り銭をスムースに出すためのミニ金庫を準備をする。
どうしよう、左隣はオセアニア人、右隣となる斜め後ろはプロ作家。いずれも20代くらいの女性に見える。一方、私たちはただの素人高校生。この二組に挟まれると物凄く地味だ。
まぁいっか。この醜悪な内容の本が世の中に出回らなければ私にとっては好都合。赤字を出して損するのは知内さんだけ。だから売り上げなんて気にしない気にしない。
机に本を積んで、知内さんが描き下ろした宣伝用のイラストを段ボールの蓋部分を切り取った板に貼り付けて立て掛ける。
「麗姫、今日は本を売り切って百合の良さを世間に知らしめようではないか!」
いやです。
さて、そろそろ開場だ。天井が熱気で曇り、他人の汗や脂が付着する立ち止まり困難な会場で、私たちは本を売り切れるだろうか。できれば売りたくないけれど……。




