夢を見て、夢へと誘い込まれて
性欲の塊のくせに気品高きお姉さまの私を子どものように見る獣男と麗姫、そしてベタ塗りもろくにできない役立たずの新史に作業を手伝ってもらいやっとの思いで完成させた同人誌。いくら労を労ったところで彼らへの謝意は尽きない。完成させられなかったらご足労いただく読者の期待を裏切るのみでなく、交通費や食事代、人によっては宿泊費を無駄にさせてしまうから、プレッシャーは大きかった。しかし、より大事なのは本が読者に届いてからだ。内容が面白くなければせっかく買ってもらっても気持ちを萎えさせてしまう。だからこそ、そうならないよう印刷所に無理を言ってギリギリまで推敲し、できる限り高品質な作品を提供できるよう心掛けた。
本の内容は私の欲望を具現化した百合モノであるが、将来文筆業で生計を立てるにはそれのみでは難しいし、経済的な事情はさておき私自身、百合やジャーナル以外にもっとジャンル幅を広げてゆきたい。
「見知ちゃん、難しいこと考え過ぎてないかい?」
「私がそういう性分であるのは承知だろう?」
ふたり並んでベッドに掛け、水入らずの会話をする。近頃そのような機会はなかったと、いつのまにか離れた距離を縮められた気がして、少し気持ちが昂る。ジンジャーエールでも用意すれば良かったと、己の配慮足らずに僅かながら傷心した。
「考え過ぎて栄養の殆どが脳に吸収されちゃうから、こんなに可愛いんだね」
「か、可愛い!? それは何か!? ミニマムという意味での嫌味か!?」
そういうことならば散々言われてきたぞ! そういうことなら!! だがなんだこれは!? 違うニュアンスを期待しても良いのか!?
「小さいし、頭脳明晰の割に誉め言葉にはスマートな返答ができない。どこか欠陥した感じがして、放っておけないよ」
「けっ、欠陥だと!? この私のどこが欠陥だと言うのだ!?」
「欠陥だらけでしょう。でもだからこそ、僕は君の傍に居られると思うんだ」
「だ、だからなんだ!? どういう意味だというんだ!?」
徹夜続きで私は疲れているんだ。早く結論を述べてくれないか。さぁ、早く。
「云わせないでほしいな、そこまでは。それとも、伝えなきゃダメかな?」
「試行回路がまともに機能していない。伝えるなら伝えておくれ」
「そう、わかったよ」
「んん!?」
いつものようにヘラヘラしている新史に私は急に抱き寄せられ、口を口で塞がれた。期待していた出来事とはいえど、実際にされてしまうとどのように対処すべきか戸惑ってしまう。しかし新史はそんな私をカバーするように、優しくやさしく私を撫でて、ふわふわした夢への入り口へと誘い込まれた。
更新遅く申し訳ございません。お読みいただき誠にありがとうございます!
今回のお話は文筆家の不安と恋愛ということでお送りいたしましたが、前半は割とリアルな感情を表現できたのではと思います。なにしろ、文筆ではございませんが私自身、期限に追われる身ですので(笑)




