幽体離脱未遂
「おいおいキミのボディーに魂は宿っているか~」
「ヤバイ、幽体離脱する……」
北海道を飛び立った勇と萌香は無事成田空港に着陸し、ロビーを歩いて茅ヶ崎行きの高速バス乗り場へ向かっていた。勇は修学旅行同様に精魂尽き果て、スーツケースに抱き付いた状態で萌香に牽引されている。
「あははー。首の後ろ叩いてやろーかー」
「やめておけ。つまらんイタズラが萌香を殺人犯に仕立て上げるぞ」
「ねぇねぇ、このままバスの客室に乗せるのは面倒だからさ~、床下の荷物スペースにブッ込んでいい~?」
本当に殺人犯になってしまいそうな気がした萌香は、これがダメなら次はアレと、あの手この手で勇をいじる。
「やめてくれ。暗所は苦手なんだ」
「じゃあテメーの足で歩けー」
このままでは本当に荷物スペースへ投げ込まれると危機感を持った勇は必死に地を踏み締め、視点が定まらないままバスに乗り込み、座席に倒れ込んだ。
「こらこら~、座席は一人一席だゾ☆」
乗客は勇と萌香の他に三人しか居ないが、高速バスでは法令によりシートベルトを締める義務があるため、正しく着席しなければならない。
「横に、横になりたいんだ……」
「よし、じゃあ荷物スペースに行こう♪ あそこなら横になっても大丈夫さ~」
「いや、俺をあそこまで引き摺るのは面倒だろう」
「なに言ってんのさ~。楽しいことなら面倒でも喜んでやるさ~」
「萌香って何気に小悪魔だよな」
「あははー。そんなことないさ~。思うままに生きてるだけだゾ☆」
結局、勇は萌香に押さえ付けられシートベルトを装着。窓や通路側に座る萌香にもたれ掛かり爆睡しながら旅路を過ごした。




