初デート
七夕を過ぎて蒸し暑い土曜日、今日はなんと、神威くんとの初デート♪ 敢えて初めて二人きりで行動した雪まつりの時と同じく、テレビ塔の前で午前10時に待ち合わせの約束をした。9時40分、私は地下鉄を降りて地下街の出口を目指している。
服装は夏らしく、尚且つ無難に白のワンピースにした。今までオシャレに無頓着だったけれど、これからは神威くんに喜んでもらえるよう研究してみよう。
「わーはっはっはっ! 前にここで待ち合わせた時は周りのリア充どもが羨ましく見えたけど、今はちっとも羨ましくねぇぜ! なんてったって俺の彼女は超美人! そこらの女子なんか目じゃねぇぜ!」
地下街から地上に出ると左側の約100メートル先にテレビ塔がある。テレビ塔に近付くに連れて、何を言っているのかわからないけれど一人で叫ぶ男の声が聞こえてきた。
変質者かなぁ。近寄りたくないなぁ。なるべくあちらを見ないようにしよう。
「おっ! 愛しのマイエンジェル!!」
男がこちらを向いて声をかけている。エンジェルさんがこっちに居るのかなー。私はエンジェルじゃないから男の視界に入らない場所へ移動しよう。私は回れ右をして、やや速足でテレビ塔と反対方向へカツカツと歩き出した。
トントン!
不意に背後から誰かに左肩を少し強く叩かれたので、仕方なく振り返る。
「おいおい麗ちゃん! シカトはひでぇぜ!」
「シカト?」
「呼んだら知らんぷりして歩き出したじゃんかー」
「え? 私、呼ばれてないよ?」
呼ばれたのはエンジェルさんだもん。
「あれ? 聞こえなかったか! そうかそうか! なら次からはもっとデカイ声で呼ぶようにするぜ!」
「大丈夫。私から声を掛けるから」
もっと大きい声なんかで呼ばれたら恥ずかしくて逃走しちゃうよ。今だって半ば逃げ出したのに。
「おお! そりゃ嬉しいぜ! じゃあ気分を切り替えて、まずはホテルで休憩するか! よく考えたら麗ちゃんとはまだスキンシップしてないんだよな!」
いきなりホテルで休憩!? ロマンスのカケラもない! なんなのこの人!? 何考えてるの!?
なんとなく想像できるけど…。
気乗りしないので、私は小さな革製の白いバッグからオキシドールをちらつかせた。
「すんませんでしたー!」
神威くんはピタリと立ち止まり、深く頭を下げた。角度は120度くらいかな。
「そういうのはね、雰囲気が大事なんだよ?」
「はい、麗ちゃんとイイ感じになって子作りできるよう頑張ります!」
「ふふふっ、そういうのは頑張るんじゃなくて、自然とそうなるものなんじゃないかな?」
私が言うと、神威くんは頬を紅に染めてゴクリと唾を飲んだ。
「そうなのか! あぁ、わかった! アレだ! 恋は焦らずだ!」
「そうだね!」
「うほーいっ! んじゃ、気を取り直してテレビ塔にでも登るか!」
「うん」
神威くんは私の手をギュッと握り、スキップしそうな具合に身体を浮かせて歩き出した。
初めて握られたわけではない神威くんの手はゴツゴツしていて頼もしく、一瞬だけホテルに行っても良かったのではと思ってしまった。
「なぁなぁ麗ちゃん!」
「はい」
「俺のは東京スカイツリーだから、期待しててくれよな! アンアン言わせてやるぜ! とっても大好き神威くんってな!」
「お外でそういうことを大声で言ってはいけません」
再びオキシドールをちらつかせた。
「まんず、すんません…」
神威くんは再びピタリと立ち止まり、先程よりは浅いけれど頭を下げた。今度は45度くらいかな。
「…でも、幸せになろうね」
うわぁ! 突発的に出た言葉だけどなんだか凄く恥ずかしい! 私、変なニヤケ方してないかな!?
「おう! ぜってぇ麗ちゃんを幸せにするぜ!」
「私も、神威くんを幸せにできるよう頑張ります」
「俺は今でもすんげぇ幸せだぜ! これからも迷惑かけちまうだろうけど、そんな時は遠慮なく説教してくれ!」
「はい、わかりました♪」
大好きだよ。エッチだけど、私に笑顔を取り戻してくれた、とってもとっても、優しい神様。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
次回はデートの続きをお送りします。
新シリーズ開始から第1シリーズ『神威編』、『麗編』のアクセス数が急増してビックリしていますw ありがとうございますm(__)m