勇や水菜が恋に悩んでいても、世間は変わらず動いている
「うほうほうほうほうほほほーいっ!」
市内発寒にある、アニメやゲームに登場する様々なキャラクターがモザイクアートと化して壁面に世界地図を形成している部屋の天井には、栗毛のショートヘアで赤い縁の眼鏡を掛けた背の低い少女と、あどけなさが少し残る黒髪ロングヘアーの少女が生まれたままの姿で抱き合う大判イラストが貼り付けられている。イラストに見守られながら、神威、麗、見知の三人は夏休み期間に東京で催される自作の出版物を販売するイベントに向け、同人誌と呼ばれる書物の制作を進めていた。神威と麗は新聞部へ入部して間もなく見知に誘われ、同人誌制作のアルバイトをしているのだ。お金の出所は見知で、売上に応じて収入が変動するため、二人とも気合いを入れて作業に取り組んでいる。
神威と麗はそれぞれ目的意識をモチベーションに労働している。その思惑は以下の通り。
うほうほうほうほうほほほーいっ! エロ本作って稼げるなんてサイコーだぜー!! カネが貯まったら麗ちゃんを悦ばすためのオモチャをたんまり買って、麗ちゃんが大事にしてるロマンスとやらが溢れるホテルに招待してアンアンするぜ!!
一方で麗は…。
近頃、知内さんに抱きつかれて奥義を繰り出してもパターンを読まれ、技が通用しなくなりつつある。このままでは天井に貼り付けられたおぞましい絵画のような事態に発展しかねない。最初は純粋に漫画が好きで始めたお仕事だったけれど、書物の内容があまりにも危険であり、純粋に漫画を愛する心を汚されてしまった。しかもそれなりに需要があり、オークションや即売会ではなかなかの好成績を上げている。これは極めて忌々(ゆゆ)しき事態だ。しかし私はこれを逆手に取ってお金をたくさん稼ぎ、雇い主を合法的に戒めるための武器を開発しようと考えた。
貴女の汚れた発想で生み出した書物が、皮肉にも貴女を奈落の底へ突き落とす道具の開発に使われているなんて、想像しているだろうか。
貴女をやっつける武器は、売上次第で完成を早められる。だから私、頑張らなくちゃ!
三人のなかで純粋な気持ちで仕事に取り組んでいるのは、もしかしたら雇い主である見知、ただ一人かもしれない。
ご覧いただき誠にありがとうございます!
作中では夏休み直前ということで、その事前ネタもやっておかねばと今回のお話をご用意いたしました。
夏休みは恋やサブカルなどイベント盛りだくさんの予定です!




