それが出来れば楽なのに
昨日から水菜が新史にやたら絡みはじめ、今日は部活休止の木曜日。昼休み、水菜は勇に絡むため教室には来なかった。放課後になっても水菜は勇の前に姿を現さず、その日、勇は水菜を一目も見なかった。
午後4時の帰り道、一人でとぼとぼ帰る勇を神威と麗が追い掛け、大通公園のベンチでソフトクリームを舐めながら一服。
「おいおい勇、大丈夫だ! きっと水菜ちゃんは勇に絡み過ぎてしつこいと思われたくないから教室に来なくなって、部室では本当は勇に絡みたいけど仕方なく新史さんに絡んでるんだ」
うぅ、ソフトクリーム口に含んだまま喋るの気持ち悪いからやめてくれないかなぁ…。
右に勇、中央に麗。左に神威が座り、麗は迷惑そうに俯いている。
「いや、だから別に…」
「素直になれって! 人生色々あるだろうけどよ、結論は案外シンプルなんだぜ! 勇が出すべき答えなんか神たる俺じゃなくても解る凡人レベル以下だろ!」
ポンポン! パチン!
神威は後ろに手を回して勇の左肩を叩き、ついでに麗のブラジャーの紐を引っ張った。
「ひゃっ!?」
ズドン!
驚いた麗は飛び退いて神威の後頭部に踵落としを食らわせた。徐々に日常化しつつある光景だ。
仕方がないので、麗と勇は力を合わせて神威を引き摺って帰る。残った神威のソフトクリームは無理矢理口の中に押し入れて首を持ち上げ飲み込ませた。
テレビ塔前の交差点で警察官と擦れ違い、死体遺棄しに行くのかと言いかけられたが、引き摺られているのが神威だと確認すると、ご苦労さまと二人に声を掛けて去った。
「留萌さん大変だな。いつも悪さされてはこうやって引き摺ってねっぷの家まで送り届けてるんだろ?」
気絶して重量感が増している神威を引き摺っていると、勇は次第に息を切らしてゆくが、麗は平然としている。
「大変、ていえばそうだけど、それでも、優しくて、頼りにならなくて、キャットフードでも気付かずに喜んで食べてくれる神威くんを見てると、なんだか可笑しくて、胸がくすぐられるの」
どういう心境だよ。それは恋愛感情なのか? それとも支配者感覚なのか?
勇は麗の言葉に対する返答に行き詰まる。
「だからね、さっき神威くんも言ってたけど、目的が明確なら導き出すべき答えは単純だと思うから、余計な感情は捨てて、自分がどうしたいのか、心をクリーンにすれば、長万部くんの複雑な感情は、きっと楽になると思うの」
それが出来ればどんなに楽だろう。勇は胸中で複雑に絡むピアノ線をほどけずに水面下で藻掻く。
3階まで運ぶのが面倒になった二人は神威をマンションの昇降口に放置し、勇と麗はその場で別れた。通ってきた道の所々に神威の尻から出たものと思われる血痕が見受けられるが、いつものことなので気にしない。
勇は独り、帰りたくない自宅へ向かいとぼとぼ歩く。
「あ、勇じゃん!」
「ん?」
俯きながら歩いていた勇は対向する万希葉に声を掛けられ、両者立ち止まる。
「なんか元気ないよ?」
心配そうに覗き込む万希葉に対し、勇はいつものことだと返す。万希葉はそれでも今日 特に元気がないと指摘し、勇を困らせた。
「とりあえず、ウチでご飯でも食べてく?」
万希葉に誘われ、帰宅してもインスタント食品しかない上に両親と会いたくない勇は、躊躇いつつもやや素直に言葉に甘えることにした。
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