曇った感情
火曜日の部活終了後18時。札幌駅で部活面子と別れた神威と勇はファミレスデートを敢行していた。
「で、なんで留寿都が居るんだ」
「あははー、今日はシフト入ってないいんだけどぉ、日曜日に更衣室のロッカーにスライム置いて帰っちゃったの思い出して~、取りに来たら二人を見かけたから~、ドリンクバーでコーラとコーンスープを混ぜてたねっぷくんに接近して混じっていいか訊いたらオッケーしてくれたのさ~」
四人掛けのボックス席で神威と勇の斜め向かいに座る萌香は両手で黄色い蛍光色のスライムを練ったり伸ばしたりして遊んでいる。萌香は食べる? と神威に問うてスライムを被せた両手を差し出すと、躊躇なくかぶりつかれた。
「きゃははー! ねっぷくん指まで舐めるなよぉ。なんかエロいゾ☆」
一部の男子は萌香の『ゾ☆』という語尾にコロリしてしまうが、神威や勇は特に気にしていないし、萌香も単なる天然で、ぶりっ子をしているつもりはない。
「そうか! せっかくだから口直しにおっぱいしゃぶらせてくれ! スライム小麦粉っぽい匂いなんだけどちょっと苦くてな」
「浮気者は抹殺しちゃーうゾ☆ そういえば二人とも、恋人との仲はどうなのさ」
「俺はラブラブだぜ! 麗ちゃん、たまに茶色とか緑色した薄味のシリアルに鰹節をかけた一品料理をご馳走してくれるんだけど、アレに醤油をかけたら最高だな!」
哀れな目で神威を見る勇と萌香。きっとそのシリアルは人間が食べるためのものではないが、本人が喜んでいるのならばそれで良いのかもしれない。
「んーと、キャットフード神は放っておいて~、勇っちはどうなのさぁ」
勇はいつもの気怠そうな表情で答える。
「なんていうか、よくわかんねぇんだよな。まぁ付き合ってるわけじゃないし…」
「ふぅん。でもちゃんと向き合わなきゃ可哀想だゾ~」
「そうなんだけどな、なんつうかこう、モヤモヤして、好きとか嫌いとかっていうのをハッキリさせらんないんだよ」
「おいおいおい贅沢な悩みだぜ! 俺なんか水菜ちゃんみたいな感じでベタベタ言い寄られたことないぞ!」
「あははー、ねっぷくんはヘンタイだから仕方ないさ~」
「なんだと!? 失礼だぞ!」
「あははー、ごめんよー」
棒読み口調の萌香からは謝罪の意が一切感じられない。
「とりあえずぅ、勇っちは気持ちに整理をつけなきゃね~」
唇に人差し指を当てる萌香はどことなく色気があり、単純な野郎どもは何気に目を奪われていた。
「あぁ、まぁそうだな」
ハッキリしない勇の感情に混沌が生じるのは、次の日であった。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
神威と麗以外にスポットが当たり始めたこの物語は小説と呼べるものに進化できるのか!?




