勇ましい水菜
神威が純玲にチェーンソーでレイン棒の取り外しをしてもらっている頃、勇の部屋には水菜が勉強を教えてくださいと押し掛けていた。
「どうしたんだ? 期末試験ならもう終わっただろ」
「復習ですよ復習! 勇せんぱいの成績を悪化させて留年になって、私と同学年にさせるなんて目論見は全然ありません!」
「残念だったな。俺は勉強しない主義だから、いくら邪魔されようとも成績に影響はない。それより事前連絡なしにこんな荒れ果てた家に来られても困る。幻滅しただろ」
庭がなく合理性重視で設計された40坪ほどのグレーの一軒家は玄関から穴だらけの白い壁、廊下や居間など所々に散乱する経済紙や新聞紙。両親共働きの長万部家はいつも殺伐としているが、昼間は平日も土休日も関係なく、勇ひとりきりだ。
「現代っ子の家なんてそんなものです!」
「そうか~?」
「茅ヶ崎にある私の家もこんな感じですよ!」
「重たい話を元気に語られてもな…」
「私の個性です! でもこれで勇せんぱいがクールでキケンな香りを漂わせてるルーツがわかりました!」
「そうか。それは良かった」
「ってことで、正式にお付き合いしましょう!」
「どうしてそうなる」
「家庭の苦難を味わった者同士、通じあうものがあると思うんです!」
「そういうカップルって、破綻しやすいんじゃないのか?」
「うるさい黙れです!」
「ニコニコしながらキツいこと言うな。萎縮するだろ」
「うるさい黙れ」
「冷淡に言われると凹むわ…」
「勇せんぱい、肝っ玉ちっちゃいですね!」
「今じゃ周知の事実だろ」
「飛行機乗るのが怖いのは有名ですね!」
「金属の塊が空飛ぶんだぞ? それにエンジンが故障したり鳥が入り込んだらどうすんだ」
「バードストライーク! 乗員乗客全員アウトー!」
「だろ? シャレになんねぇぞ」
「飛行機に携わる人って大変ですね!」
「だな。ミスは許されないからな」
「じゃあ、私が居なくなったら、どうします?」
「おいおい、まさか飛んでる飛行機ハイジャックして自殺するつもりか?」
「そんなことしません! 私がハイジャックするのは勇せんぱいだけです! なんなら今から乗っ取りましょうか?」
「どういう意味だ」
「勇せんぱいの子どもを産みたいって意味です!」
「養育費とかどうすんだ。まだ高校生だぞ」
「現実的ですね! でも、将来のパートナー候補くらいなら、なってもいいですよね?」
「俺のパートナーになってもいいことねぇぞ」
「かもですね!」
「うるせぇ」
「そんなぶっきらぼうな態度じゃモテませんよ? むしろハッキリ言って自分に自信がないのをひた隠すために偉ぶってるみたいでウザイし敵をつくります!」
「うっ…。胃が痛くなってきた…」
「でも大丈夫! 私が勇せんぱいのハートを徐々にほぐします!」
「いや、そんなことしてくれなくても…」
「黙れですツンデレヘタレ弱虫!」
「はい…」
水菜や神威ほか、周囲は強者揃いであるが、自分は特にこれと言ったものがない絹ごし豆腐であると改めて痛感する勇であった。
ご覧いただき本当にありがとうございます!
今回から神威と麗以外にもスポットを当ててまいります!




