表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/76

藤原の見解

ごめんなさい。龍も美緒も、直接は出てきません。

 篠ちゃんの結婚式のスピーチを考えながら、羨ましくなった。ずいぶんスローペースではじまった篠ちゃんの恋愛は、加速度をつけて進み、とんとん拍子に結婚に行き着く。

 はじめて松山さんと鈴森さんに会った時、篠ちゃんがどっちを見ているのか、すぐにわかった。篠ちゃんは、いわゆる「男ウケする女」は好きじゃない。会社の中で篠ちゃんに近付こうとする女は居たけど、寄らせようとしていなかった。


 顔を寄せられると、男ですらドキっとしてしまうような容姿の篠ちゃんは、中身はかなり男くさい。可愛らしい見た目(って言うと、怒るけど)と如才ない対応で、女の喉元に迫るのは、天才的だ。本人は無意識だから、女の方はたまったもんじゃないと思う。

 本人に言ったら怒るから言わないけど、設備部じゃなくて営業部だったら、奥様方からの圧倒的な支持で、成績は上位だったんじゃないかと思う。あ、旦那様方から反感買うかな。


 松山さんは、本当に色気のない女の子だった。着るものも機能性重視に見えるし、驚いた顔も嬉しい顔も隠そうとしない。くるくる変わるその表情は、子供そのもの。俺にも鈴森さんにも篠ちゃんの目当てがわかってるのに、誘われた当人はまるで自覚ナシだった。表情は無防備なくせに警戒心だけやたら強くて、篠ちゃんがどう持って行くのか、見ものだと思った記憶がある。

 それでもヨタヨタとはじまった時の、篠ちゃんのめろめろっぷりは、微笑ましかった。朝の出社時に手を繋ぎかねない顔に、普段の、見かけによらず硬派な篠ちゃんのイメージは、俺の中で覆った。まあ、かわいいことかわいいこと。

 ……そんなこと言ったら、得意のボディーブローが来るけどね。


 部屋に来たの料理が上手だのって聞いてたから、まだコトを行ってないと聞いたとき、心底驚いた。篠ちゃん自身がケーケンホーフなのかどうかは知らないけど、けして晩熟なわけじゃないことは、知ってる。松山さんみたいに慣れない女の子を押し倒しちゃうなんて、難しいことじゃないだろう。

「焦って怖がらせたくないし」

 成人式をとうに過ぎた女に、そんなに慎重になるほど、本気だったのか。その時に初めて、篠ちゃんを羨ましいと思った。


 それまで、決まった女の子がいるのっていいな、巨乳は好きだけど、それだけじゃなあ……なんてノリだったのに、そんな次元とは全然違う感情なんだ、そう改めて思った。例えば松山さんが海で溺れそうになったら、篠ちゃんは後先考えずに、海に飛び込もうとするんじゃないだろうか。そんなことを思い浮かべた。

 良かったね、そんな相手に出会えて。胸はないみたいだけど。


 春が過ぎた頃、松山さんは急に綺麗になった。全身から幸福なオーラを出しているような松山さんに、注目した男は多分多かったと思う。その頃から篠ちゃんは、「常に一緒にいること」を考え出してたんじゃないかな。仕事にも熱が入って、他人よりも多く動くようになってた。同じ頃から女子社員たちが「化粧させたい」なんて言わなくなったのは、中身が顔に出てきたからだと思う。

 今現在篠ちゃんは、性別を間違えられることが少ない。(皆無じゃないってところは、気の毒だけど)

 表情から甘さが消えて、強さが前面に出たのだ。松山さんと一緒の時は、のんびりした顔になってるけど。


 どんなスピーチにしよう。身近で見ていた馴れ初めから話そうか。それとも。


「篠田龍太郎君。いや、篠ちゃん、美緒ちゃん。ご結婚おめでとうございます。僕は君たちを、とても羨ましく思っています……」



fin.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ