be happy,Lovers! 6
ゴールデンウィークだから少し遠出しよう、そう言って早い時間に待ち合わせた。
「横浜に行って、肉まんでも食べる?」
「あたしのイメージって、それ?」
尖った唇を引っ張ってみたい衝動にかられて、龍太郎は自分の手に、いけないと言い聞かせた。
「『たぬきや』の鮪丼を食べる人」
「そればっかりじゃないっ!」
「じゃ、荷物を肩に担ぐ人」
「最近、ちゃんと手伝ってくれって言ってるもん。じゃなくって、なんかこう、もっと上品な」
「こっちがその気になってる時に生理の人」
「それってあたしのせい?」
なんとなく、含みのある言葉ではある。
結局横浜まで出て、山下公園で肉まんを食べていたりする。潮風はもう、夏の気配だ。赤レンガに行くか元町をウロウロするかと話し合い、立ち上がって海を見ていた時。
今、言わなくちゃ。勇気出せ、あたし!
隣に立つ人の俄かに緊張した気配に、龍太郎が注意を向けた。
「今日ね」
「何?」
言っ・・・言えない!
海に向かって唇を噛みしめ、下を向いた美緒は耳まで真っ赤だ。
「何?どうしたの?」
顔!顔覗きこまないで!余計に言えない!手の平で顔を覆ってみる。熱い。
龍太郎の慌てた気配が伝わる。ごめんなさい、今言います。
「今日、友達と旅行するって言って家出てきた!だから、帰んない!」
一息に言いきって、膝を抱えて顔を隠した。美緒の横に立つ龍太郎の動きが止まっている。
ああ、やっぱりおかしなこと言った!と後悔しはじめた時、頭上から手が伸びてきた。美緒の髪を乱暴にかき混ぜている。目だけ上げてみる。手の主は海を見たまま、身体だけを傾げている。
美緒の髪が台風にでも巻き込まれたかのように乱れた後、上から声が降ってきた。
「そういうこと、言う人だったんですか?」
このフレーズへの答えは、あらかじめ提示されてる。記憶にある。
「言う人なんです。おイヤでしょうか?」
もう一度髪が乱暴にかき回された後、平手が小さく美緒の頭を打った。
「まったくっ!俺が言うつもりだったのにっ!」
ほら立って、と肘を持って美緒を引き上げた。耳まで真っ赤な顔と涙目、この顔ははじまりの顔だ。パワフルで恋愛感情だけに疎くて、俺にとっては誰よりも女の子らしい女の子。
「赤レンガの方に行ってみようか。俺の部屋に置いとくカップ買おう」
フジのマグとか、間に合わせのカップじゃなくて、美緒専用のカップを食器棚に並べよう。気持がちょっとずつ寄り添ったみたいに、今度は生活の中にちょっとずつ美緒の色がつくといい。
手を繋いで歩きだした龍太郎と美緒を、潮風がふわりと祝福した。
fin.
最後までおつきあいくださって、ありがとうございます。
ベタなラブコメを、ここまで引っ張って申し訳ありません。
もしも気に入っていただけたなら、感想や評価をいただけると、とても嬉しいです。
そして次回もおつきあいいただければ、こんなに嬉しいことはありません。
実はもう少々ベタベタさせたいのですが、「あーんなことやこーんなこと」をここにアップすることもできませんので、ムーンライトの方に場所を移します。
もし興味を持っていただければ、龍太郎と美緒のその後を覗いてやってください。