be happy,Lovers! 4
本館五階の踊り場で待ってて、と指示があって、美緒は薄暗い階段に腰掛けた。仕事の邪魔をしてしまって申し訳ないと思う一方で、こんな顔してるところを見せちゃっていいのかなとも思う。
なんでこんなに落ち込んじゃったんだろ。前に同じような叱られ方しても、自分でどうにかできたのに。
重い鉄の扉が開き、軽い足音が階段を降りて来る。
「どうしたの?何かあった?」
仕事、中断させるような用件じゃなかったのに。
「ごめんね。ちょっと失敗して落ち込んだだけだったの」
くしゃ。階段に座ったままの美緒の髪に手が差し込まれた。くしゃくしゃくしゃ。龍太郎は黙ったまま、髪だけかき混ぜている。
忙しいとこ、そんなんでって怒ってるかな。
美緒は上目でそっと表情を窺った。そして、えーと。この顔って、何?どこからどう見ても。
「龍君?」
龍太郎の顔に浮かんでいるのは、極上の笑みだった。
更に髪をかき混ぜながら、龍太郎も階段に腰掛ける。座ったついでに、フットボールのように美緒の頭を胸に抱えた。抱えられた頭がジタバタしている。美緒の髪はもう、ぐしゃぐしゃだ。
やっとのことで頭を引き抜いた美緒が膨れる。
「もうっ!ふざけてっ!」
憂鬱は見事に吹き飛んでいた。
「ふざけたわけじゃないよ」
「落ち込んでたのにっ!仕事中だから、ちょっと顔見て帰ろうと思って」
続きの言葉よりも、龍太郎のキスの方が早かった。
「嬉しいんだもん」
美緒の問い返す視線の先には、まだ上機嫌の龍太郎の顔がある。
「落ち込んだときに俺のこと思い出して、会いたいって思ってくれるのが嬉しいんだもん」
うわ、キザ!何赤くなってんのよ、あたし!
ひんやりした階段に並んで腰掛けたまま、龍太郎は美緒の肩を抱いていた。美緒も龍太郎の肩に頭を乗せる。この距離がいい。体温を感じる距離。
「さて、元気出た?そろそろ仕事に戻らないと」
立ち上がった龍太郎と一緒に、美緒も立ち上がる。美緒の背に一度両手をまわし、龍太郎は力を籠めた。
「このまま時間気にしないで、こうしてたいんだけどね」
賢い柴犬は、自分の安心できる場所をちゃんと知っている。やっと首輪をつけた。もう、俺が飼い主。
「うん。ごめんなさい。ありがとう」
別れ際にもう一度短いキスをして、惜しがりながら手を離す。
「龍君、好き」
「知ってる」