be happy,Lovers! 2
「まさかと思うけど、まだ?」
沈黙が答えだ。藤原の信じられん、という眼差しがウザい。
「つきあって、どれくらいになる?」
「かれこれ四ヶ月は過ぎた」
手を繋ぐだけのデートが、二ヶ月近く続いていた。もちろん一緒に出掛けたり食事したりするのは、楽しい。やっと自己主張をはじめた美緒が、どこに行きたいの何を見たいのと嬉しそうに言う。それはもうささやかに、桜まつりで甘酒を飲むことだったり、青山界隈で買いもしない骨董品を眺めるだけだったりするのだが。好きな女の子の手を握って、最近ますますかわいくなった表情を見て、隙あらばキスしちゃったりしてるのだ。楽しくないわけがない。
けれど、満足してるわけでもない。っていうか、きっぱり不満。
タイミングを外してしまったのだ、とは思う。突然逃げた美緒を怯えさせたくなくて、少し引き下がった。少し引き下がった筈が、次の一歩の踏み出しどころがわからなくなった。他の相手ならば、なし崩しのなあなあで元の位置に戻るのだが。
いかんせん、相手は美緒だ。雰囲気を読む力はない。きっかけがきっかけなだけに、部屋になんか呼ぶと「やらせろ」と言っているように見える気がする。いやだから、無理になんて言わないって。だけど、一生このまま?それは、カンベン。
「高校生か」
鈴森の思いっきり呆れた視線に耐えかねて、美緒は下を向いた。
キスしたいの、なんて相談を持ちかけたわけではない。鈴森の彼氏は確か自宅勤務の筈で、みんなどこでキスしたりベタベタしたりしてんのかな、なんて聞いたのが最初だった。
「車の中とかホテルとか?松坊のとこ、篠田さんはひとり暮らしじゃない。場所になんて困らないでしょ」
龍太郎が部屋に入れることを躊躇している原因は、自分だということを理解はしている。美緒が怖がっていると思いこんでいることも、察しはついている。違うの!と声高には言えない。
「あの後、お部屋に行ってない・・・」
「あのって、ババシャツ?冬の話じゃない。もうじき、五月になるよ?その後進展してなかったの?」
やはり、沈黙が答えだ。ただし、美緒の顔はテーブルの表面に張り付いていた。
「やっぱりあんた、八十の処女になるような気がする・・・」
「不吉なこと言わないで!」
すでに「あーんなことやこーんなこと」への覚悟は決まっているのだ。もっと近付けば、もっと好きになるという確信がある。にもかかわらず。
どうしろっていうの、この先!