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be happy,Lovers! 1

 ちょっと焦っちゃったか?

 龍太郎は遅い夕食を済ませた後、美緒の突然の慌てぶりを思い返した。そのまま先に進んでしまいそうな気もしていたが、別に無理強いするつもりはない。拒まれればまだ引き返せる段階ではあった。けれど、受け入れてくれる雰囲気にはなっていた筈だ。自分がそう思い込んだだけだったんだろうか?

 首筋まで上気した色を思い出す。必死でしがみつく手が、背中に感触を残している。

「いや、本当はすっごくしたいんだけどね」

 炬燵布団を直しながら、独り言が口をついて出た。自分だけがそう思って、実際そうなった場合の空々しさは願い下げだ。そんなことにはしたくないし、時間をかけるのは苦痛じゃない。

 俺の鍵を持っているのは、あの子だから。


 電車をひとつ乗り換える時に、美緒はやっと空腹に気がついた。駅の売店で買ったシリアルバーを齧りながら、電車を待つ。

 よかった、龍君が怒ってたんじゃなくて。それどころか、あんなやさしい顔で――――

 うっ!あたし、動転して変なことした気がする!

 口の中で砕いたシリアルが、喉に詰まってむせた。咳込みながら、電車に乗る。自分のことながら、あれは著しく風情に欠ける振る舞いだったと思う。絶対、急に嫌がったように見えた。

 ごめんなさい、龍君がイヤだったんじゃないんです!怖いとは思っても、逃げたいとは思いませんでした!でも、ババシャツ!


 その週の土曜日に一緒に映画を見に行っても、龍太郎と美緒は手を繋いで歩いただけだった。その次の週に待ち合わせした時も、龍太郎の部屋へ行くなんて話にはならず、建物の陰でこっそりキスしただけだ。もしくは、会社帰りのビルの緑地帯で。

 次に密室でふたりきりになった時に、龍太郎は自制心に自信がなかったのである。ゆっくり時間をかけて感情を育てたい、なんてのは頭の中だけのことだと知っているから。


「そりゃまた、ずいぶんむごいことを・・・」

 しょぼくれてるねーと誘われたコーヒーショップで、鈴森は呆れた顔をしてみせた。美緒の顔は今、羞恥心満載である。あの場合、どうしたら良かったの?

「まあ、松坊らしいっちゃ松坊らしいけどね。まー、篠田さん気の毒」

 気の毒がられるようなこと、しちゃったんだ!

 本当は、キスしたい。唇を触れるだけのキスじゃなくて、あの―――

「そのあと、お家に誘ってくれないんだもんー」

 情けない声が出た。自分から「ふたりきりになりたい」なんて言えない。このタイミングで言ったら、「次の段階に行きたいんです」と言っているようなものだ。

 次の段階っていうのは、つまり。


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