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meaning of inferiority complex 6

 冷えてしまった美緒を炬燵に入れ、インスタントコーヒーのマグを差し出す。

「何も怒ってないよ?どうしたの、急に」

「だって、龍君先週からずっと変だったし、今日も電話に出てくれないし」

「電話、家に忘れたんだ」

 美緒は驚いた顔をした後、急に天板に額をつけた。

「良かったー・・・あたし、龍君が何か怒ってるんだと思って。あたしが何かしたのかと思って」

 俺が俺の感情で手一杯になっている時に、この子はそれを自分の不首尾だと思っていたのか。

「ごめん。ちょっと落ち込んでただけ」

「何かあったの?」


 返事の変わりに肩を引き寄せると、また緊張する気配が伝わる。

「もっと力抜いてくれればいいのに。俺、怖い?」

 そのまま抱き寄せると、まだ冷えている肩が大きく深呼吸した。

「怖いんじゃなくてね、ドキドキする」

「この間、男の首に腕を回してたじゃない。あれは平気なの?」

 ぱっと身体を離した美緒は、不思議そうな顔で龍太郎を見た。

「だって、あれは大木君だよ?ドキドキなんかするわけないじゃない。杖とか歩行器にドキドキする人はいないでしょ?」

「へ?」

 間抜けな声が出た。


「男らしくて頼りになるとか」

「何で?大きくて筋肉質な人って、男らしいの?スポーツ選手なんて女の人でも、ほとんどあたしより大きくて筋肉質だけど」

なんか、手応えがヘン。

「俺、チビだしさ、好きな女の子が具合悪くても運んでやれないし。情けねえって」

「落ち込んでたのって、そのことだったの?」

 炬燵の同じ面に窮屈に座りながら、美緒は自分から龍太郎の手を握った。

「ごめんね。あたしが不用心だっただけなのに」

「じゃなくってさ、男としてって言うか」


「あたしのお父さんも、お母さんのことなんて運べないよ?」

「へ?」

 また、間抜けな声が出る。

「あたしのお父さん、胃が悪いからすっごく痩せてるの。お母さんが寄り掛かったら、多分転ぶ。だからって、頼りなくないもん」

 大真面目に主張する美緒の顔を見る。慰めやいたわりではなく、本当にそう思っていることを発見する。笑いがこみ上げてくる。

 この子は今、すごい破壊力のある事柄を口に出したって理解してるんだろうか。


 まったくこの子は、俺のコンプレックスなんて、なかったものにしちゃう。

 握られた手を逆に掴みなおし強く引いてから、びっくりした顔にキスをする。頬、目蓋、唇、とキスが続き、少しずつ逃げようとする顔を追っているうちに、美緒の背は床に着いた。


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