meaning of inferiority complex 3
失礼だけど、無理でしょう?
はい、そうです。その通りです。女の子が目の前で具合を悪くしてても、俺は運んでやることができません。背負うという行為はできるかも知れませんが、背ではなく首にでも乗せないと、引き摺る形になります。でも、それは俺が望んだことですか?
身体が小さい分、他で挽回するしかないと思っていた。負けを認めるのはキライだから、自分が勝てない土俵では、他の何かができるとアピールしてきたつもりだ。
ああして、できないことを見せつけられるんだ。身長基準でジエータイやケーサツに入れないのと同じように。
「あれ、もう大丈夫なの?」
「うん、痛み止め貰ってるし、昨日動かさなかったら、ずいぶん楽」
「気をつけてね。大変なことは手伝って欲しいって言っても、誰にも責められたりしないんだから」
通勤時に手を繋いだりはしない。並んで歩いているだけだし、どちらかの会社の人間が混ざって、途中で離れることも多い。
龍君、なんか変。あたしの顔を見てくれない。
「今日も早く帰りなさいね、腰痛は後引くから」
はーい、と小学生のような返事をしてから、美緒はもう一度龍太郎の横顔を覗き見た。やはり前を向いたままで、美緒の方を見ない。
何か、怒らせるようなこと、した?
夜にメールを数通やりとりして、龍太郎は炬燵に足を入れたまま、目を閉じた。
彼はね、包んでもらってるって実感できる人なの。龍太郎君にはやさしくしてもらったけど、私は心だけじゃなくて、実際に蹴ってもビクともしない人が好きになったの。だから、ごめんね。
美緒もいつか、そう言い出すかもしれない。彼女はおそらく、他の男を知らないんだから。俺じゃない相手がいるんだって自覚したときに、他の相手がたやすく差し出せるものを、俺は持っていないのだと気がつく。
その時に、何が言える?
―風邪気味だから、明日は家で寝てます。
土曜出勤の現場が終わったあと美緒に送ったメールは、半分くらい嘘だ。
今、笑えないから。開き直った筈のことで、こんなに落ち込んだの久しぶりだから。
暖かくして寝ているようにと返信が入ったのを確認して、携帯のフラップを閉じた。ごめんね、と思う。情けねえな、と思う。深く溜息をつく。
大丈夫、来週には復活するから。