meaning of inferiority complex 2
ヘルメットと営業鞄を持った龍太郎が作業着姿で駐車場に降りた時、絡まりながら歩く男女がいた。なんだあれ?と、そちらに目をやると、男の方は見たことのある顔だ。首にぶら下がった女の腰を支えながら歩いているらしい。
病人でも出たのか?
顔を確認して、ぎょっとする。自分の彼女だ。
「美緒ちゃん!」
「あ、龍君。腰、やっちゃった・・・病院行って来る」
自分の彼女は他の男の首にぶら下がったまま、世にも情けない顔をした。
はっきり言って、この体勢は心穏やかじゃない。相手の男は自分の彼女の腰を支えながら、「松山さんにお世話になってます」とか言うのだ。
「肩、変わりましょうか?」
龍太郎が大木に申し出ると、大木は龍太郎を見下ろした形で返事した。
「失礼だけど、無理でしょう?自力で立ってられないんだから、上から支えてないと」
瞬間、頭に血が上るのをこらえる。痛いのは、美緒なのだ。そして、大木の言うことは尤もなのだ。
「すみません。よろしくお願いします」
頭を下げて、自分の営業車に向かう。振り向くと、美緒と大木がノロノロと駐車場の中を進むのが見えた。
ちくしょうっ!
「松山さんの彼氏、すごい顔してたね」
後ろの座席に美緒を押し込んだ後、バックミラーを調整しながら大木は言った。腰に負担がかからない形をもぞもぞと探りながら、美緒が聞き返す。
「なんでって、自分の彼女が自分の目の前で他の男に抱きついてたら、面白くないでしょうが。なんか俺、松山さんの彼氏に悪いことしたかも。謝っといて」
「いや、悪いのはあたしだし、大木君は不可抗力・・・いてて」
「痛がり方まで、色気ない」
「うるさいっ!・・・いて。声出すと、余計痛い」
「俺は松山さんの彼氏に同情する」
整形外科の受付まで大木に肩を借りて別れ、痛み止めを処方された美緒はよろけながら帰宅した。手を付きながら階段を上ってベッドで丸くなる。龍太郎へ明日は安静、と診断結果をメールした時には、大木に言われた「すごい顔してた」はすっかり頭から抜け落ちていた。
龍太郎からの返信は、「無理しないで治しなさい」だった。メールで顔は見えないし、声の調子もわからない。だから、頭から抜け落ちてしまった事柄に、龍太郎がどんな顔をしているかなんて、美緒は想像もつかない。
どちらにしろ、想像はつかないかも知れない。龍太郎は嫉妬に苦しんでいたのではないのだから。




