recognized me 2
「ケーキ、食べてかない?」
同僚たちと一緒にビルを出ると、美緒の前から覚えたばかりの顔が歩いてきた。
ネクタイ締めてる!似合う!
多分身体のボリュームに合わせて選んでいるだろうネクタイは細身で、童顔がシャープに見える。
「先程は、ありがとうございました」
軽く頭を下げると、笑顔が戻ってきた。通り過ぎ、同僚に「誰?」と聞かれる。
「知らない。さっき、ギプス運ぶ時にちょっと手を貸してもらったの」
「かわいいけど、背、低過ぎかな」
たしかに、あたしよりも小さかった。
女の子の集団とすれ違って背中に視線を感じた龍太郎は、思わず振り向いた。挨拶を交わした女の子とは別の何人かがこちらをちらちらと見ている。
言ってることは知ってるんだ。顔は良いのに背が低すぎるとかなんとか。
事実だ。絶対に否定はできない。盛大に溜息をついた。
せめて、中身だけでも男にしとこ。男のおばさんにならないように。
「身長って重要項目?」
声が聞こえなくなったあたりで、美緒が発した言葉は、知らない。
「篠ちゃんの身体のどこに、俺と同じ量の食い物が入るわけ?」
龍太郎の同僚・藤原の発言だ。
「胃袋に決まってるだろ。頭とかケツのわけあるか」
仕事帰りのラーメン屋で、ビールを飲んでから大盛のタンメンと餃子を頼んだ。20代半ばにして腹まわりを気にし始めた藤原は、休日にせっせとジムに通っている。
「その顔でそのセリフ、ヘン」
「好きで女顔じゃねえっ!」
殊更男を主張したような藤原の、縦にも横にもがっちりした体格を眺めてみる。一緒に居ると、自分が余計に小さく見える気がする。しかし、社内で一番気が合う。
フジみたいな外見なら、違う人生だった気がする。
そんなコンプレックスが何の役にもたたないことは、龍太郎だって理解しているのだ。




