evolving relation 4
若い女が彼氏の家で整えるにしては、ずいぶんと所帯臭いメニューが炬燵の上に並んだ。
「なんか時間が半端だね、夕飯にはちょっと早すぎるかも」
まだ夕方の五時だ。
「いいよ。美緒ちゃんも帰らなくちゃならないし、冷めないうちにいただく」
箸を口に運ぶ龍太郎を、真剣な顔で見つめる美緒がかわいい。
「旨い。きんぴら、次からもう少し辛くしてくれる?」
ほっとした顔になり、美緒も箸をとる。
「及第?次は龍君の番だもん。期待して待ってる」
あ、また部屋に来るって言った。次回の約束が嬉しい。
「カレーだけどね」
洗い物を片付けても、七時にもならない。借りてきたDVDを一緒に見る。とうもろこし畑をくりぬいて野球場にするその映画は、美緒は鑑賞したことがないものだった。だから、マグカップに伸ばした手をそのまま忘れて、画面に見入っているところを申し訳ない、とは思ったのだが。
肩に手を掛けると、美緒はテレビに目を向けたまま硬直した。炬燵の脚が邪魔だ。同じ面に移動すると、とても窮屈になった。
「龍君、狭い」
文句を言う声まで硬直している。肩に置いた手に少しだけ力を入れて、顔を寄せた。
息!どうしたらいいの!
苦しくて、龍太郎のシャツの胸の辺りを握り締めた。首と背をホールドされ動くこともできない美緒は、合わせた唇を内側からなぞる舌に、呼吸ができない。もう限界だと思った時、緩められた唇の間から吸い込んだ息は普段の呼吸と違う音階で、龍太郎のシャツを握る手にますます力が入る。
こんなキス、知らない。
舌は探るように深くなり、背に回った手が巻きついた後、唐突に離れた。
「びっくりした?」
呼吸が整うのを待ちながら、龍太郎は美緒の頭を自分の肩に引き寄せた。多分、今、涙目。
「これ以上すると、ストップが効かなくなっちゃうから、今日はここまで」
ぎょっとした気配があり、腕の中がたじろぐ。
「伸びちゃう」
「え?」
「そんなに掴んでたら、カットソーが伸びちゃう。俺の服、全部ネットで取り寄せなんだからね」
自分の手が力いっぱい握りしめていたものに気がつき、美緒は慌てて手を離した。視線を落すと、龍太郎の胸から下にかけて、思い切り良く掴んで引っ張った皺がある。ケンカで胸倉を掴まれたようでもある。
「・・・伸びた。ごめんなさい」
顔を見返す勇気はなく、美緒はそのまま龍太郎の肩に額を当てていた。
「次から、引っ張れないように脱ごうか?」
声にならない悲鳴を上げて美緒が飛び退くのを見て、龍太郎はこらえきれずに吹き出した。