evolving relation 3
「あ、思ったよりも綺麗・・・かも知れない」
美緒が見回した龍太郎の部屋の感想は、そんなものだ。実際は普段床に落ちているものを、昨晩押し入れに丸めて押し込んだに過ぎない。現在、六畳プラス台所(キッチンなんて呼べるものじゃない)のアパートの部屋の中に見えているのはパイプベッドとふたり用炬燵、ビニールロッカー及び本棚兼のカラーボックスの上に置かれた小さなテレビだ。台所には小さな冷蔵庫と小さな食器棚がある。台所と並行して、ユニットバスがある。洗濯機置き場が玄関に入って靴箱の横にあるのは、スペースの問題だろうが違和感が大きい。
意外なほど、と言っては失礼だが、美緒は意外なほど手際良く料理をした。二畳の台所や小型のシンクや、龍太郎の手持ちの調理器具に文句を言いながら、慣れた包丁さばきだ。
「見縊ってた。料理できないかと思って」
「味の保証はしないよ?自分の家以外でお料理するのなんて、はじめてだから。龍君自炊しないの?」
「たまに。カレー三日間食べ続けるとか、スパゲティー茹でてケチャップで炒めるとか」
「外食ばっかりしてると大きくなれないよ」
「どうせこれ以上、大きくならない」
美緒の顔に「失言」と大きく書かれたのを見て、龍太郎は頭を掻いた。
「ごめん、別に気にしてないから。しょーもないこと言った俺が悪い」
あたしが無神経なんだ、と美緒は思う。龍君が気にしているのは知っているのに、なんでそれくらいの気が遣えないんだろう。
「美緒ちゃん」
呼ばれて振り向くと、頬に軽いキスが来た。
「何作ってくれんの?すっげー楽しみ。期待しちゃおっと」
逆に気を遣ってもらってるんだ、無駄にしちゃいけない。
「レンコンのきんぴら、ナスの煮びたし、ほうれん草のあんかけ、豚汁。あと、お魚の煮付け」
ふと食器棚に目を留める。
「食器、ずいぶんかわいいね」
やべ。確かに勘はいいや。
食器は、モトカノが揃えたものである。女の子好みのファンシーな水玉がすべて二揃い、ただし茶碗は同じ大きさ。
「姉貴と一緒に住んでたことがあるからね」
ギリギリで嘘じゃない。たとえ五年前のことであっても。ふうん、と納得した美緒に心の中で安堵する。他に何かないか、大急ぎで頭の中を確認する。大丈夫だ、あとは消耗品しかなかった筈。
味見、と言いながら、フライパンの中のレンコンを摘む。心配そうに窺う顔に、口移しで味見させてやろうかと考えてから、火と包丁がある場所だと思い返して止しておく。闇雲にウロウロして怒られる。
「邪魔!何もしないんなら、テレビでも見てて!」