evolving relation 2
「気をつけて帰って。帰宅したら報告」
龍太郎と藤原が改札で手を振った後、鈴森は美緒の顔をしみじみと眺めながら言い放った。
「俺の女感、満載」
「何?」
「あの小さい彼女、篠田さんに気があったでしょ。多分イヤミのひとつも言おうと思って来たんだよ。がっちり跳ね除けてたけど。で、男が覗きに来た時は、わざわざ呼び捨てで牽制」
確かに、何回か呼び捨てられたような気はする。
「挙句の果てに、顔確認して『帰宅したら報告』ってもう、何?って感じ」
顔の前で手をひらひらさせる鈴森に、思わず赤くなる。
「あたし、鈍い?」
何を今更、と笑われ、美緒はひそかに落ち込んだ。そうか、鈍いのか。
その頃、龍太郎と藤原は同僚の集団に捕獲されていた。
「あれ、三浦は?」
普段、何が何でも最後まで残っている三浦がいない。
「なんかすっごい勢いで酔っ払っててー。今、タクシーに押し込んだとこ。犬がどうとかって荒れちゃって」
藤原と顔を見合わせる。三浦は多分、来週には龍太郎に近付かなくなるだろう。
「ちょっと悪かったかな?」
「しょーがないでしょ、篠ちゃんにその気がないんだから」
そろそろ帰る、と龍太郎が腰を浮かしたところで携帯が震えた。
―無事帰宅しました。鈴森も家に到着。おやすみなさい。
返信して顔をあげると、こちらを見ている顔がある。
「しあわせそー。充実したセックスしてるヤツはいいなー、俺もカノジョ欲しー」
・・・まだ、してないって。見通しも立ってませんて。そうは返事できないので、曖昧に笑って返す。
「俺、女じゃなくても篠田が相手なら、いけるかも」
「あ、俺も。入社したばっかりの時、ボーイッシュで好み、とか思ったら男でがっかりした」
「・・・まとめて、殺すっ!」
酒の席でのお約束になりつつある会話は、いちいち記憶していると翌日以降の社会生活に支障をきたす。
バレンタインが近い。
「チョコレートはいらない、メシ作って」
龍太郎の希望によりエコバッグを提げた美緒が、緊張した面持ちで上板橋の駅の改札に立ったのは、その週末のことだった。
美緒ちゃん、それ、遠目に見ても挙動不審だから!そんなに緊張しなくたって、いきなり何かしようなんて考えてないから!
笑いそうになりながら待ち合わせに現れた龍太郎は、「まずスーパーだね」と美緒の手をとった。