evolving relation 1
―今、仕事があがった。これからフジとそこに行くから。
美緒が鈴森とお喋りしていたコーヒーショップに現れたのは、龍太郎と藤原だ。連れ立って居酒屋に場所を移し、落ち着いたところで後ろから声がした。
「藤原、篠田、ここ空いてるからこっちに来いよ」
龍太郎が振り向くと、何人かの同僚が座っている。三浦込みである。
「いや、今日は社外の子が一緒にいるから」
「えー?篠田君の彼女、紹介してぇ。可愛いんでしょー?」
これは三浦の声だ。美緒が委縮するのが、鈴森に見えた。
「ちょっと失礼」と言いながら、美緒を化粧室に引っ張っていく。
「何、怖がってんのよ!松坊らしくないっ!彼氏の知り合いと飲むくらい、できないの?」
「だって、あたしって龍君と似合わない気が」
「バカ」
鈴森は呆れた口調で美緒の言葉を遮った。
「見た目だけ似合いでも、中身が似合いじゃなきゃしょーがないでしょうが。篠田さんに失礼だよ、そんなの」
「龍君より背、高いし、女の子っぽくもないし」
鈴森は盛大に溜息をついた。
「あのね、あんたは充分かわいいから。だから篠田さんがせっせと誘ったんでしょうが。どうも、そっち系の話だけイキオイがないね。らしくないよ、そんなの」
だって、そう言った本人がそこにいるんだもん。さすがに、それを言うことはできない。
結局、席は移っていなかった。入れ替わり立ち代わり「篠田のカノジョ」を覗きに来る人はいたが、概ね楽しそうに一言二言言葉を残して去ってゆく。それに卒なく言葉を返すくらいは、美緒にだってできる。藤原が手洗いに立つまで、その席は平和だった。
タイミングは確かに偶然だったのだろう。三浦が化粧室から出てきた時に、藤原の席が空いていたのだから。
「あら、篠田君ったら女の子独り占めにしてぇ。私も入っちゃおうかしら」
そう言いながら龍太郎の隣に腰掛けた三浦は、やにわに美緒に話しかけた。
「篠田君がお世話になってますぅ。 彼とつきあうのって、どんなにかわいい子だろうって楽しみにしてたんですよ」
観察するような視線に耐えられず、美緒がスカートを握りしめようとした瞬間、龍太郎の声が入った。
「かわいいでしょう。誰にもやらないもん」
「あ、惚気てぇ。篠田君ってこういうタイプが好みだったんだぁ」
「そ、ジャストタイプ。趣味いいだろ」
戻ってきた藤原が、横に立ちニヤニヤしている。
「俺、マルチーズとかヨークシャーテリアより、柴犬の方が好きだもん」
「あたし、柴犬?」
顔をあげた美緒に、鈴森と藤原が同時に吹き出す。
「確かに、リボンつけたり服着たりしてる室内犬じゃないわ、松坊」
「三浦は猫かな、ヒマラヤンかなんか」
「俺、犬派」
不機嫌な顔になって席を立った三浦の後姿を、まだニヤニヤしながら藤原が見送る。
「篠ちゃん、策士」
「人聞きの悪いこと言うな」