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not assumption 4

 密室で横に座ってると緊張するんですけど!

 意識が龍太郎に向く分量だけ、美緒は窓の外を夢中になって眺めるフリをしていた。窓の外なんか見えちゃいないのである。龍太郎の顔を見られないだけだ。

「あ、ずいぶん高くまで来た」

 そう言った時に、髪に指がかかった。

「美緒ちゃん、こっち向いて」

 視線が絡まないよう注意して、顔だけそちらを向ける。

「下向かない、こっち」

「龍君、外見ないの?」

「ここなら、逃げられない。さっき、逃げられるのは今のうちだけって言ったでしょ?」

 ますます顔があげられない。


 仕方がないので、頤に指をかけて顔をあげさせる。真っ赤な顔に涙目。この顔にやられちゃったんだよな。

「採用通知、もらったから」

 顔を寄せると、思ったよりも素直に美緒は龍太郎の動きに従った。触れるだけのやさしいキスをして、頭を引き寄せ、耳の熱さを頬で確認する。見えていない顔は、きっとますます上気しているに違いない。

 もう一回、もう少し。


 二度目のキスは、やはり触れるだけだと思っていたのだ。美緒の予測外なことに、触れた唇は角度を変えて、そのまま合わされた。驚いて思わず首を引く。

 ちょっとちょっと!あたし、この後どんな顔したらいいの!

 髪の間に差し込まれていた龍太郎の指は、そのまま肩に滑り降りてきてそこに止まった。力を篭められるままに、美緒の肩が傾ぐ。外の景色を見るどころではない。

 やがて観覧車は下降し、龍太郎に手を引かれた美緒は、下を向いたまま公園の中を歩き始めた。


 上野駅のホームで別れ、美緒は電車の中で脱力した。自分の指で唇を辿る。自分の目を覗き込んだ龍太郎の顔を思い出す。そして、繋いだ手を振り解こうとした時の、意外な力の強さ。おにぎりを出した時の笑い顔。

どうしよう。あたし、さっきから龍君のことばっかり考えてる。

泣きたいような気分なのだが、何故泣きたいのかはわからない。


 山手線の座席に腰掛け、龍太郎は軽く目を閉じた。良い一日だったと思う。触れたのは唇だけなのに、それ以上を手に入れた気分になるのは何故だろう?

 ワクワクする。どんどん近くなってく。

 目を閉じたまま緩みそうになる頬をこらえ、頭を抱えた時の耳の温度を思い出す。あの耳にキスしたら、どんな顔するんだろう。悲鳴を上げて逃げるかな?


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