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 寒いから少しだけと海まで行って、美緒が大ぶりのバッグから取り出したものを見て、龍太郎は笑い、美緒は膨れた。

「レストハウスが混んでると困ると思ってっ!なんでそんなに笑うの!」

「いや、嬉しいけど。らし過ぎて」

 アルミホイルに包まれたおにぎりが、無造作にスーパーの袋にごろごろと入っている。とりあえずウェットティッシュは一緒だが、それのみである。本当は絵にかいたような弁当を作ろうかと思ったのだが、それを開ける時の自分を想像しただけで、転げ回りたくなるほど美緒は恥ずかしかったのだ。それでも、いつも自分より先に財布を出してしまう龍太郎に申し訳なくて、必死に考えた「一番恥ずかしくないもの」だった。

 そうか。龍君から見たあたしって、こんな感じなのか。

「ありがとう」

 膨れながら声に向き直ると、照れたような笑顔があった。

「昼飯に気を遣ってくれたんでしょ?嬉しいよ」


 財布を出すたびに美緒は「払う」と強弁する。暮れのボーナスはまだ残っているし、年下でしかも一般職の美緒よりは、所得は多いはずだ。アパートを借りている分、物要りは物要りだが。それでも「金を使わせている」と気にして昼食を用意しようとする美緒は、龍太郎にとって「紛れもなく女の子らしい女の子」だ。

 おにぎりのアルミホイルを毟って口に運ぶ。

 なんか、すげえ嬉しい。どうしようってくらい嬉しい。

 隣でペットボトルのお茶を口に運ぶ美緒を見る。冷たい風に煽られて、目を細めている。靡く髪、スカートの裾を押さえる手、そんなものに目を奪われる。食べ終えてアルミホイルをくしゃりと潰し、礼を言う。

「旨かった。ご馳走様」

 ほっとしたような笑顔が戻った。

 頬に触りたい、と意識したわけではない。気がついたら手が伸びていた、というのが正しい。そして、龍太郎の指が顔に向かって伸びるのに気がついた美緒は――――大きく身体を反らせて避けた。


「何ですかっ!」

 悲鳴のような声が、やけにおかしい。

「何も逃げなくても」

「いきなりこんなところで顔触ろうとしたら、誰だって逃げます!」

「見てる人なんていないのに」

「そういう問題じゃありません!」

 あまりに不慣れな対応に、吹き出した龍太郎は膝を抱えた。

「美緒ちゃん」

「はい」

「逃げられるのは今のうちだけ」

 ちょっと待って!今のはどういう意味?

 パニックに陥った美緒に笑いかけてから、「観覧車に行ってみる?」と龍太郎は立ち上がった。


 寒い時期の観覧車は空いていた。当然向かい合わせに座るものと思っていた龍太郎が、隣に腰掛けたので驚きはしたが、「同じ景色を見よう」と言われて納得もした。

 ここで、予備知識として解説をしておくと、葛西臨海公園の観覧車は、一周十七分、周囲に高い建物はなく、水平から水平までのおよそ七分間、他人の目にまったく触れないのだ。もちろん、美緒は知らずに希望を述べたに過ぎない。

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