not assumption 2
「葛西臨海公園。大観覧車に乗りたいって言ってたでしょ?」
「今時期だと、空いてるかな」
翌日の打ち合わせをして電話を終え、美緒は携帯を充電器に置いた。
大丈夫、龍君変わってない。あのメールについて何か言われたら、舌噛んで死ぬ!
妹から借りたワンピースを眺めながら、ふとキスに思い至る。龍太郎の形の良い唇、近付いてくる顔、目を閉じた自分。昨夜は頭がいっぱいで、それは重要事項じゃなかった。
えっとえっとあのあの!大丈夫、未経験じゃないっ!
けれどそれは高校生の頃であって、これから順調に何事もなく進むと、その先には「あーんなことやこーんなこと」が待ち構えているのである。多分、間違いなく。
Bomb!美緒は自分しかいない部屋で、赤面した。
葛西臨海公園の駅で待ち合わせに現れた美緒は、やっぱり挙動不審だった。一言で言えば、どっちを向いて良いやら、わかっていない顔である。
「短いスカート、はじめて見た」
「短いっていっても、ちゃんとスパッツ穿いてるもん。生足じゃないし」
自分と会うために、服装に気を配ってくれるのが嬉しい、と龍太郎は思う。美緒は龍太郎の顔を見ずに、やたらめったらキョロキョロしている。その手を掴んで水族園に向かい、チケットを買う時に一度手を離してから、入場してもう一度掴み直す。
「龍君、手を繋ぐの好きだよね」
素直に手を預けた美緒が、前を向いたまま言う。また緊張しているらしい。
「俺と美緒ちゃんのデフォルトですから」
「いつから?」
「これから。独占権付きで」
美緒の視線を捕えてから、龍太郎はにっこり笑った。
「昨日のメール、採用通知だよね」
「読まないで削除って言ったのに!やだもうっ!離して!」
アカシュモクザメの前でジタバタする美緒の腕を脇の下に抱え込み、龍太郎はしばらく美緒の耳の色を見ていた。ちょっとおとなしくなったところで、腕を緩める。
「腕力は俺の方があるって言ったでしょ?細いから非力ってわけじゃないんだから、諦めなさい」
手を握られたまま、美緒はしゃがみこんで膝に顔を埋め、呻いた。
「消してって言ったのに・・・しかも、こんなところでそれを持ち出すなんて・・・」
「じゃあ、どこなら良い?海の見えるホテルのベッドの上?立ちましょうね、邪魔になるから」
ほぼ半泣きの顔で立ち上がった美緒と順路を進む。
「そういうこと、言う人なんですね?」
「言う人なんです。おイヤでも、手遅れ」