Standstill a little 5
「どういう意味?」
龍太郎の真剣な声に我に返った。何を言ったんだろう?
「なんでもない。おなか空いたね。どこにする?」
「だから、どういう意味?」
聞き逃してくれる気は、ないらしい。美緒は途方に暮れて足元を見つめた。
だって、どう言ったらいいの。龍君と歩いている姿に違和感を感じる人がいて、それが怖いなんて。
「俺と一緒にいるところを見られるのがイヤだってこと?」
答えることのできない美緒は、それきり口を閉ざした。
こっちに来て、と龍太郎が導いたビルの谷間の緑地帯は、とても寒い。
「寒いけど、ここなら人もあんまり来ないし、他のテーブルに気を遣うこともないから。ねえ、どういうことか説明してよ。俺がチビの童顔だから恥ずかしい?」
「そんなんじゃない」
「別にそうならそう言ってもいいんだよ。今までそんなことは何度もあったし」
でも、今度は違う風に期待しちゃったんだ。女に間違われる俺を「男の人」って言ってくれたから。
「そうじゃないのっ!」
美緒の喉が詰まる。石のベンチに座り込んで、言葉を捜しながら見上げた龍太郎の顔は、ひどく寂しそうだった。何か言わないと傷付けてしまう、そう思いながら美緒は必死で言葉を捜した。
「龍君じゃなくて、あたし。あたしがもっと女の子らしくてかわいければ、誰も何も言わないのに」
「誰かに何か言われたの?」
しまった。これじゃ、そう言っている人がいると告げたようなものだ。美緒はまた俯いた。
美緒の横に龍太郎が腰掛ける。石のベンチは冷たい。
「それって、俺がこんなツラじゃなくて、こんなチビじゃなきゃ誰も何も言わないってことだよな」
一緒に俯いた龍太郎は、誰が言ったかとは聞かなかった。
「容姿なんて、俺が選んだものじゃない。誰がどう見ても仕方ないけど、それで拒絶されるのはイタい。でも、どうしてもイヤなんだったら、それは仕方ない」
「違うの。あたしが龍君に申し訳なくて。せめてもう少し誰から見ても」
だって、どう考えても合わないのはあたしだから。美緒はその言葉を飲み込んだ。
「女の子らしくてかわいいでしょう。俺はそういう子につきあって欲しいんだけど」
他人の基準の判断なら、いらない。龍太郎は俯いた顔を起こした。
「俺の容姿は、我慢できないくらい嫌い?」
美緒は首を横に振る。ううん、好き。これは声に出さない。
「誰からもお似合いですって言われたい?」
ううん、そんなの無理。やっぱり首を横に振る。
「俺は美緒ちゃんが、すごくかわいいと思ったから、顔を覚えてたんだ。他人にどうこう言われる筋合いなんかない」
「俺がそう思ってるだけじゃ、ダメ?」
顔が近い。視線が絡まって、外せない。
龍太郎の手は柔らかく伸びて、美緒の首を引き寄せた。
「本採用、待ってるんだけど。それとも不採用?」
返事していいんだろうか。本当にあたしでいいの?
返事をする前に顔が更に近付き、戸惑いながら美緒は瞳を閉じた。