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Standstill a little 2

―おやすみなさい。

 携帯のフラップを閉じた龍太郎は、自分の顔が緩んでいるのを自覚している。次は一緒に何をしようか。くるくる変わる表情が面白くて、驚かせたり笑わせたりしたいと思う。意外に臆病で小心な部分もかわいいと思う。もっと他の顔も見たい。たとえばキスしたら、どんな顔をするんだろう?

 映画の趣味は似ているらしい。ハリウッド映画よりも単館映画が好きで、日本のベストセラー小説の映画化したものを、見に行く約束をした。身体を動かすことが苦にならない部分も、似ている。春が来たら、森林公園辺りでサイクリングなんかもいいかも。


 湯船の中に丸まって、美緒は次の休日について考えていた。映画を見て、お茶を飲んで終わりでは、物足りないような気がする。外見は小さくてやさしげだけれど、意外に短気で負けず嫌いな部分が会話の端々に出てくる。自分に向けられる表情は、時々驚くほど大人の顔だ。何かに戸惑ったりすると、わかっているとばかりに頷かれることがある。にもかかわらず自分の要求は、あの大きな瞳で押し通すのだ。

 あたしが何かに関心を寄せるたびに、彼は楽しそうにそれを見ている。博物館の恐竜の骨とか、映画館で買ったパンフレットだとか。そして、自分の好きなものにあたしが興味を示しただけで、この上なく嬉しそうな顔をする。あの顔をもっと見たい、と思う。


 日曜日に待ち合わせて行った映画は美しかった。深くてせつないラブストーリーで、長身の俳優のやるせない表情は素晴らしかった。そして、静かな―――性愛のシーン。

 えっとえっと、綺麗なんだけど、自然なんだけど。だけど。

 美緒は龍太郎の横顔を盗み見て、落ち着かない。やっぱりハリウッドの娯楽作品にすれば良かった、と後悔する。どんな顔していいかわからない。自分にもこれが訪れるのは、知ってる。不自然だともいやらしいとも思わない。試用期間なんて言ってるけど、その後には。

 きゃ――――!

 美緒の頭がジタバタしていることを、龍太郎は知らない。

 一緒にパンフレットを覗き込みながら、静かでせつない映画だったね、と感想を言い合う。パンフレットの中に、件のシーンの写真がある。慌てて視線を逸らした美緒は、まったく別のことを考えている。

 この人はその時、どんな顔をするんだろう?

 自分の想像にあっけにとられ、猛烈に恥ずかしくなる。


 あれくらい身長があれば、女の子はすっぽり腕の中なんだよな。

 龍太郎も別のことを考えているのである。自分の小さな身体とか細い腕とか、そんなものに腹を立てても仕方がないことは重々承知なのだが、時々どうしようもなく憂鬱になる。見てくれに寄って来られるのはいい。だけど、それは自分が望んだものではない。女の子を安心して寄りかからせることは物理的に無理で、それを諦める変わりに俺が欲しいのは「見てくれ以外の俺」を求めてくれる子だ。

 はじめから俺を「男の人」と言ったこの子は、少なくとも容姿じゃないところも見てるんだよ。


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