get nervous 7
とりあえず東照宮で初詣をして、寒いので正月から開いている科学博物館に入った。芸がないと思わないでもなかったが、細かく見て歩くと結構楽しいものである。
中に、剥製だけを並べたフロアがある。
「なんか、怖い」
美緒は表情を強張らせた。室内はガラガラだ。
「生きていないものが生きてた時の形で立ってるのって、怖い」
美緒の指が宙をさまよっている。その指を龍太郎がキャッチし、下ろしてそのまま握る。
「案外と怖がりだね」
手!手!握ったままなんですけど!これは試用期間のうちなんですか!
しんとしたフロアの魂のない動物たちに、怯んだのは確かだ。でもこれは、剥製よりもインパクトが強い。握られている手を引き抜くのも、なんだか気が引けて、美緒は無口になっていた。龍太郎の顔には、ごくごくアタリマエの表情が浮かんでいて、自分だけがジタバタするのも癪に障る。手を繋ぐプラスアルファくらいなら、経験済み!オタオタしない!
それにしても、指の細いやさしい手。
自分の手に繋がる手をこっそり盗み見て、それからもう一度、まじまじと見下ろした。
「どうかした?」
「手、ずいぶん荒れてる」
通路まで出て、美緒は自分のバッグの中からハンドクリームを取り出した。
「せっかく綺麗な手なんだから、そんな風にしといたらもったいない」
「クリームの類、キライ。ベタベタする。綺麗じゃなくても不都合ないし」
「そんな細くて長い指、あたしと取り替えて欲しい」
言いかけて、龍太郎の顔が曇ったのが見えた。
「替えられたらいいんだけどね。俺はこんな手、好きじゃないし」
自嘲笑いのような溜息に、駅で見た光景を思い出した。「綺麗」は褒め言葉じゃないんだ。
「でも、その手は可哀想。ノビの良いクリームだから、ベタベタしないよ」
美緒がチューブを差し出すと、龍太郎は手の甲を上に向けて、胸の辺りで揃えた。
「塗って」
何を言い出したのかと、思わず顔を見る。
「俺は要らないって言ってるのに、塗りたいのは美緒ちゃんだもん。手、貸してあげるから塗っていいよ」
言い分は間違っていない。間違ってはいないが、これは―――
「そういうこと、言う人だったんですか」
「言う人なんです。おイヤでしょうか?」
額に手をあてて、美緒は俯いた。