get nervous 6
試用期間でとか言っちゃったけど、すぐにでも本採用したいんだけど。こればっかりは慌てたら全部パアだし。
とりあえず「篠田さん」は、つっかえながら「龍君」になった。とても呼び難そうではあるが、仮がついても「つきあっている」のだからと言ったら、「そんなものかなあ」と要領を得ない顔で引き下がった。龍太郎の実家は電車でも一時間程度の場所なので、冬休みだからと長くいるわけでもなく、大晦日の晩に帰って、正月二日には自分のアパートに戻る。姉の結婚相手が挨拶に来て、父親が酔っ払ってしまったのを潮に家を出発した。電車の中で携帯をポケットから出す。
明日、会えたらいいな。
―妹と初売り巡りして、ぐったりしてます(福袋ゲット!)明後日は予定があるので、明日なら大丈夫です。
送信してしてしまってから、美緒はもう一度文面を見直す。大丈夫、変なこと書いてない。
―上野まで行く。会ってから行き先を決めよう。
時間の連絡の簡単なやりとりの後、「おやすみなさい」のメールへの返信が「早く明日になるといいな」だった。携帯電話相手に、どんな顔していいのかわからない。
なんだか恥ずかしいんですけど。
実は、休み中ずっと気にしていた。メールは毎日来るのだけれど会おうという言葉はなくて、実家に帰るのは知っていたが、実家からいつ戻るのか知らなかった。友達との新年会は、ずいぶん前に決まっていたので、四日は予定があると話した記憶はあっても、覚えていないかも知れない。気になるんなら自分から連絡すれば良いのに、それがなかなか難しい。
福袋の中身をベッドの上に広げ、その横に胡坐をかく。
何、着てけばいい?
明けて翌日、上野の大パンダ前で。龍太郎が着ているのはMA-1ではなく紺色のダッフルコート、「腰が寒いから」と至極真っ当な理由だ。インターネットの専門店でサイズを取り寄せているので、もちろん仕立はメンズである。子供服や婦人服とは肩幅が違うのだ。
姿を認めた美緒が近づこうとした時だ。東洋人ではないと思われる、身体の大きな男が龍太郎に近付き、何か話しかけている。道でも聞かれているのかと、美緒は足を緩めた。
と、みるみる間に受け答えする龍太郎の顔が赤くなっていく。
「男だよ!I'm a man!ふざけんな!」
何を言われたのか、尋ねなくてもわかる。話しかけた男が立ち去り、龍太郎の顔色が戻ったのを確認してから、美緒は後ろから声をかけた。
「遅くなって、ごめんなさい。電車に乗り遅れちゃって」
見てないよな、見られてない。見られたくない。こともあろうに男にナンパされてるところなんて。シャツ一枚の夏場よりも、当然冬の方が確率が高い。そして今回、膝上まで覆っているコートだ。大抵の場合ごついスニーカーを履きバッグを持っていないので、日本文化で育った男ならば気がつくところだ。
よりにもよって、女の子との待ち合わせの最中に―――ちくしょうっ!
美緒の顔が微妙に気遣わしげなことに、気がつく余裕はない。