get nervous 5
メール、来ないんですけど。
十一時を過ぎた。龍太郎からのメールは来ない。美緒は隣に携帯を置いたまま、本を読んでいた。メールがいつ来るのかと、読書に集中できない。
明日から休みだからっいうのは、明日待ち合わせしようってことなの?それとも休み中はどうするのかって話なの?
まだ出先かと思うと、連絡したらいけないかとも思う。遊んでいるのはわかっているのに、遊んでいる相手もわかっているのに、なんとなく気が引ける。メールが遅いと文句を言うほど、まだ相手に慣れていない。
やっと着信音が鳴ったのは、十一時半だった。メールではなくて、通話である。
「こんなに遅い時間だと思わなかった」
そう言うのが精一杯だ。
「他の人が何人か合流して、帰るのが遅くなっちゃった。ごめん」
他の人、で美緒の頭に一瞬ピンクのコートが浮かぶ。あっちの会社、若い人が多くて仲が良さそうだったもの。その連想は、なんだかとても面白くない。美緒は納会の後、片付けに手間取って会社を出たのが八時過ぎだったのだ。
「連絡、待ってた?」
自分で、メールするって言ったクセに。
「待ってません」
「すぐ電話に出た」
待っていたことは、自分でもよく知っている。認めるのは、少し勇気が必要な感情のような気がする。
翌日の午後に待ち合わせることにして、通話が終わる。
「明日は遊園地なんて言わないから、スカートでも大丈夫だよ。屈むと見えそうなやつ」
「・・・オヤジ?」
受話器の向こうから、笑い声が届く。
「まあ、中身はそんなモン。映画にでも行こう。じゃ、また明日」
ちょっと酔ってたな、と美緒は思う。こっちが構えて喋らなければ、向こうも砕けた語り口になる。急ぐ必要はない、試用期間なんだから。こちらが向こうを知らない分、向こうもこちらを知らない。
待っている気分って、それほど悪くないな。
手足に力を籠めて立ち上がり、美緒はクローゼットを開けた。ボーイッシュな服に甘い差し色、鈴森に指導されたテクニックを試してみなくては。