get nervous 4
「で、クリスマス・デートはどうだったの?」
昼休みにランチに引っ張って行かれ、美緒は鈴森の尋問を受けていた。さすがに大勢で取り囲んでの攻撃は避けたらしい。とは言っても、美緒の相手が「本館五階のかわいい彼」だというのを知っているのは、鈴森だけではなくなっているのである。
「・・・試用期間」
「何それ?」
拗ねたように口を噤む美緒の断片を繋ぎ合わせて、鈴森は推測する。
「何にせよ、そういうことになると思ってた。頑張ってね」
頑張るって、何を!
年末も二十八日になってから、龍太郎の仕事はやっと一息つく。現場は終わり、翌日の仕事納めは内勤することになった。毎年午前中から社内の片付けをして、適当な時間に納会が始まり、早い時間に解散になる。
飲みに行こうと藤原に誘われ、一も二もなく賛成してエレベーターでロビーに降りると、龍太郎の前に三浦がいた。
「あ、ふたりでどこか行くのぉ?いいなあ」
誘う気、ないから!
良いお年をー、と笑顔を返しながら、藤原に目配せして別館から出ることにする。ビルから出たところに、また見知った顔があった。事務服のままエプロンをつけ、髪を括っている。しかも、缶ビールのケースの上に段ボールを重ね、ツマミらしい乾きモノやスナック菓子を載せたものを抱えている。顎で落ちないように押さえているらしい。先に吹き出したのは、藤原だった。
「持とうか?フジ、ビール持ってやって」
とりあえず喋れるように上に乗せている段ボールの箱を外すと、美緒はほっとした顔になった。
「営業さんがそこまで車で持って来たんだけど、今、駐車場に車を入れに行ってて。この体勢だから下にも降ろせなくて、戻ってくるの待ってたんです」
「美緒ちゃんって力仕事担当?」
「持てますもん。納会は部単位だけど、女の子はもうひとりしかいないの。彼女は今、先に来たデリバリー品の用意してて」
持てないと言えば、当然誰かが手伝った筈である。
「ありがとう。なんか得しちゃった」
にこにこしながら言う顔を見て、ほっこりした気分になる。車を回して戻った営業に荷物を渡して、龍太郎と藤原はビルを出た。
「後で、メールする。明日から休みだから」
「あれがウワサの松山さんの彼氏?」
「誰がウワサした?」
「あちこちで。すっごくかわいいって。松山さんより小さいね」
「まだ本格的に彼氏じゃないっ!身体の大きさは本人の責任じゃないっ!放っといて!」
荷物を持って手が塞がっているので、美緒は足の甲で大木の膝の裏を蹴った。おおいて、と顔を顰めた大木と一緒に階段を昇る。
「彼氏ができても、女っぽくならないね」
「うるさい!」
階段が暗くて良かった。あたし、今、顔が熱い。
「あれ、三浦より上?胸も色気も皆無に見えるんだけど」
「全然上。皆無じゃないだろ、見てないけど」
意識した上目遣いで、かわいらしさを自分から強調するような女は、いやだ。それよりも、スカートだからメリーゴーランドの馬に乗れないのが残念だと、大真面目に言う女がいい。
「貧乳は、悲しい」
「でかきゃいいってもんじゃない」
「形も重要だよな」
何の話だ。