get nervous 3
パニック顔で下を向いた美緒の顔を、龍太郎は覗きこむ。それなりに手応えがあると思ったのは、間違いだったのだろうかと不安になってくる。こんなに悩ませるようなことなんだろうか。
「聞いていいですか」
注意深く龍太郎の視線と絡まないように顔をあげた美緒は、混乱した顔のままである。
「つきあうってどういうことなんでしょう?このまま仲良くなったらいけない?」
本当は、それが良いと思っていた。けれど半日一緒にいただけで、「友達からはじめる」が龍太郎にとって、難しいことだと自覚してしまった。友達と恋人は、違う。
「俺と一緒にいるのは、イヤ?」
「楽しいです。でも、具体的に『つきあう』のイメージがわからなくて」
男とつきあったことがないのだろうか?美緒の顔には戸惑いばかりが浮かんでいる。それとも、断わる言葉を捜しているのか。
「イヤだったらイヤだって言ってくれても」
「そうじゃないの。何か定義があるのかな、と」
定義と来たか。
龍太郎の顔がふっと美緒に寄せられ、頬骨のあたりを唇がかすった。避ける暇も与えられず、美緒はそのまま大きく目を見開いた。
「日常的にこういうことがしたいってことです。独占権付きで」
ずいぶん遅れて上半身を思い切り引いた美緒は、両手に顔を埋めて呻いた。本当に免疫がないのだと、考えるまでもない反応だ。
「いきなりそういうこと、する人だったんですか?」
キスなんて、はじめてじゃない。ただ驚いただけだと自分に言い聞かす。
「そういうことする人なんです。おイヤでしょうか?」
こうなると、ペースを掴んだほうの勝ちだ。
「イヤとかそんなんじゃなくて」
「じゃ、決定」
「決定なんですか?」
「イヤじゃないんでしょ?」
「ずるい」
「イヤじゃないって言ったでしょ?」
上手く誘導された気がすると美緒が思っているうちに、龍太郎は空いた缶を持ってゴミ箱に向かっていた。
「ライトアップ見たら、池袋まで出て、メシにしよ」
美緒は、頷くことしかできない。
「さっきのも試用期間のうちなんですか」
「さっきのって?」
だから、頬へのキスだってば・・・それも、言えない。