get nervous 1
さて、問題はどこに行くかだ、と龍太郎は迷う。
できあがってしまった恋人関係ならば、話は早い。お互いの興味が一致しそうな場所を、探すこともできるだろう。水族館と博物館は、もう行ってしまった。この寒空に、庭園を散歩でもあるまい。映画、美術館、植物園・・・どんなものに興味があるんだ?忙しさに取り紛れ、考えついたのは、遊園地だ。
高い所好きだって言ってたから、ジェットコースターも好きなんじゃないかな。
どこへ行くとも知らせずに、待ち合わせた「いけふくろう」前。
「ごめん。スカートで来ると思ってなかった・・・」
「ヘンですか?」
焦った顔の美緒に、龍太郎も慌てる。
「いや、似合う。かわいい」
実は、ちょっとびっくりした。膝頭まで照れくさそうな姿が、妙にかわいらしい。おおっと見惚れてしまう程度には。
「どこに行くって言わなかった俺が悪いです。遊園地にでも、と思ったんだけど」
「行きたい!すっごく久しぶり!」
美緒の嬉しそうな顔に、龍太郎は申し訳ない気分になる。
「寒くない?女の子は、腰冷やしちゃまずいでしょ。膀胱炎になるし」
うわあ、また真っ赤だ。
「なんで、そんなことに、気がつくんですか」
恨みがましく、ひとことずつ区切った言葉がたどたどしい。
「ごめん。姉貴がそれで大変だったことがあるの」
妹しかいない美緒に、家の中に男の子のいる環境はわからない。少なくとも、男の人から膀胱炎なんて単語が出るとは、今の今まで思っていなかった。リアクションに困って泣きそうだ。
意を決して顔をあげる。
「大丈夫ですっ!タイツ履いてるし、今日晴れてるしっ!遊園地、行きましょうっ!」
「わかりました。そんなに決然と言わなくても」
何のツボに入ったのか、龍太郎はひとしきり笑ってから返事をした。
「としまえん」への電車の中で、ジェットコースターは苦手だと聞いた。高いところは好きでも、あのスピードが怖いという言葉は、意外だった。
「としまえんのメリーゴーランド、古くて素敵ですよね」
「カルーセルエルドラド、機械遺産だね。百年以上前のものが動いてるんだもんねえ」
ただの会話は、先に続けるための意識のすりあわせの意味を持つ。普段なら知識に過ぎないことが、相手の興味を探る手段だ。もうちょっと、近くに行きたい。