Unconscious act 6
年末のバタバタで、なかなか時間の空く日が見えないうちに水曜日になってしまった。ああ、やっぱり日曜日に誘っとけば良かった、と思っても、後の祭りである。
「おはようございまーす」
いつも通り早足で通り過ぎようとする美緒を、龍太郎は引き止めた。
「ごめん。平日とかってメールしたけど、今週は全然予定が見えなくて」
「忙しいんなら、無理しなくていいです。時間が空いたら、声をかけてください」
「土日も現場っぽいし・・・二十三日は、ダメだよねえ?友達と約束とかあるんじゃない?」
微妙な日程だ。
「うーん、今のところ約束はないですねえ」
「じゃ、二十三日予約。行き先は俺に任せてもらっていい?」
「はいっ。お願いします」
答えたあとに「お先に」と、いつもの早足で美緒は歩きはじめる。実は、心臓はバクバクなのだ。待ってもメールが来なくて、捨て台詞のような言葉尻に腹をたてているのかとか、忘れるくらいどうでもいい話だったのかと考えると、落ち着かなかった。
良かった、怒ってない。忘れてもない。
後ろを歩く龍太郎の機嫌の良い顔は、想像もつかないのである。
「クリスマス・デート?大進展!」
「そんなんじゃないっ!その日まで予定が合わなくてっ!」
「何もそんなにムキになって反論しなくても」
ロッカールームには、美緒と鈴森以外にも人がいるのだ。松山に彼氏?どんなの?と大騒ぎになり、美緒は膨れっ面でロッカーを閉めた。
「放っといて!彼氏じゃないしっ!大体、彼氏がいるいないなんて、騒ぎになるような年じゃないっ!」
「いや、他の誰かなら驚かない」
どういう意味よ。
「ボーナス貰ったし服買いに行くの、つきあって」
美緒がかけた言葉に鈴森は力強く頷く。
「バーゲン待ってたら、間に合わないもんね。二十三日じゃ」
「そのためじゃないっ!」
美緒の膨れっ面に鈴森は軽やかな笑いを返した。
「手持ちの服に合わせないと、組み合わせが常に同じになるよ。値が張るのはコートと靴だから、それを生かす方向で探す」
鈴森のアドバイスに従って、服を身体にあててゆく。これ、どう?と渡された服は、普段は自分で選ばないデザインだ。
「同じ丈でも、ひらひらしてるとなんかこう、膝のあたりが不安なんだけど」
「松坊に足りないのは、その不安からの緊張感」
「緊張感って」
上目遣いの美緒の視線を鈴森が跳ね返す。
「篠田さん、なんだってこう色気のない女に声かけたんだろう・・・」
「だから、そういうのじゃないって」
「そういうのじゃない人が毎週のように誘ったら、そっちの方が怖い」
決めつけられて、美緒は黙る。つきあってもらって、更にアドバイスまでもらっているのだ。これ以上文句は言えない。