Unconscious act 5
「元気で明るいイメージで、こんな感じでいかがですか?」
「えーっと、そういうのは普段から・・・ちょっとイメージが違うものを・・・」
しどろもどろ。もともと何が欲しいというわけでもないのだ。頭にあったのは、ピンク色のコートと白いブーツだ。女の子にしか楽しめない服装を、してみたくなった。会社に行けば制服があって、通うだけならばジーンズでも問題ない。だから服装っていうのは、趣味オンリーの話だ。雑誌の特集の「モテ服云々」を、美緒は今までバカにしていたのだ。不特定多数にカワイイと思われたいなんて、浅ましい気がしない?散々そう言った気がする。
違うっ!「誰にでもかわいく見える」って「誰かにもかわいいと思ってもらえるかも」ってことだ。
ビルの中の店をウロウロしながら、美緒は考える。
・・・誰かって、誰?
色白の小造りな顔に大きな瞳と褐色の髪で、指も足もあたしより細い人。ダメだ、敵いっこない。あれよりかわいいだなんて・・・ん?何か、ヘン。
ジューススタンドでストローをくわえてから、美緒はやっと自分が混乱していることを認める気になった。混乱の理由は、おぼろげに理解できている気もするのだが、今は考えたくない。
帰ろ。こんな日は、絶対ロクな買い物できない。何も買わないで帰るってのも癪に障るんだけど。
目に付いたランジェリーショップにふらふらと入って、目的もなく物色していると、店員がにこやかに話しかけてきた。
「新しいデザインが入ったんですよ。サイズ、測りますかぁ?」
店員に勧められて手にとった下着は、淡いブルーに白のリバティーレースが爽やかに女らしい。
「ショーツとキャミもお揃いだと、かわいいでしょう?」
試着室で店員に背中から脇腹の肉を全部ブラの中に押し込まれると、サイズが上がって胸に谷間ができる。嬉しくなってつい、カードケースを引っ張り出す。結構な金額だ。
もしもの時に着けよう、と一瞬思う。相手は誰だとつっこみたがる自分は、無視することにした。どうも「あーんなことやこーんなこと」の連想が、し難い。
一方、龍太郎の夕方である。龍太郎の部屋でゴロゴロしていた藤原と、夕食がてら駅まで歩いて見送る。コンビニでパラパラと立ち読みをして、やっぱり明日誘えば良かったなと後悔したりする。ボーナス出たばっかりだから、まだ余裕あるし。まだどうにもなってないのに、毎週誘うのも鬱陶しいかなと思うと、中々先に進めない。翌朝のパンとオレンジジュースを買って部屋に辿りつくと、すでに部屋の中が冷えている。
なんか寂しい。
コタツに足を突っ込み、テレビの電源を入れて見るともなしに眺めていると、話し相手が欲しくなる。仕事が手薄な時期なら、本を読んでみたり区営の体育館に行く元気もあるのだが、継続して何かをするには時間がぶつ切りになる時期は、どうも人恋しい。
柴犬、飼いたい。