Unconscious act 2
振り切れずに女の子が何人か混ざってしまった三次会で、龍太郎はゆっくりと美緒の言葉を反芻することもできずに不機嫌だった。
「篠ちゃん、今日泊めて」
「男と寝たくねえ。神奈川の奥地に帰れ」
そう言いながら、藤原と連れ立って電車に乗る。同じ方向の女の子が一緒だ。龍太郎の家の方が三十分程会社に近いので、帰りが遅くなると藤原は泊っていくことが多い。ハブラシとカップとLサイズのスウェットが部屋にキープしてある。
「ま、明日は休みだから、もうちょっと飲むか」
「泊めてもらうけど、襲わないでね?」
女の子が笑い出す。
「どう見ても、逆っ!藤原君を篠田君が食っちゃう方でしょ」
「だって篠ちゃん、肉食系なんですもの。あたしの貞操が危機なのよ」
藤原の道化た口調は、女の子を更に笑わせた。
「無理無理無理っ!篠田君の可愛さに藤原君が血迷うほうが先っ!」
そうだよな、普通みんなこういう反応するんだ。大学生の頃なんて、女の子が平気で俺の部屋で雑魚寝したもんな。龍君の家なら平気ーとかって言って。
カラダで払う?と聞いたときの真っ赤な顔。男の人と一緒にいるのが慣れないと言った時のきまりの悪そうな顔。今まで自分に向けられなかったものが、いきなり目の前に現れたのだ。それが欲しかったのだと改めて自覚してもおかしくはない。声高に主張しなくても、自分の形を認めてくれる存在。自分が女の子受けするのは、確かに知ってる。みんな警戒しないで寄ってくる。だって、警戒する要素は薄いんだから。
今度っていつにします?今でもいい。
なんであれに不機嫌になったんだろう。
なかなか眠りが訪れないベッドの上で、美緒は自分の感情を反芻する。
ダッフルコートが、似合ってたのよ。お休みの日に会うMA-1じゃなくて、紺色がやけに目に付いて。それに寄っていたピンクのコート。あたし、あんな風に女の子だって主張するようなモノ、着てない。紺とピンクのコンビネーションが綺麗で、それが何か嫌だったんだ。
捨て台詞のような響きになったのは、自覚していた。そんな口調を残した自分がヘンで、嫌だと思った。まだ何かはじまるのかどうか、自分でも理解していないのに、「なんかやだ」であんな風に言ってしまった。
篠田さんが、怒ってたらどうしよう。
また冴えてくる目を無理矢理閉じて、美緒は身体を丸めた。




