let fall to you 4
何で黙っちゃうの?やっぱり言っちゃダメだった?男の人とふたりに慣れない、なんて高校生みたいだもの。呆れたかも知れない。
黙ってしまった龍太郎に話しかけることもできず、美緒はやはり黙ってイルミネーションを見ていた。立ち止まったままだと、十二月の日暮れ後は寒い。何かヘマをしたのかもしれないと気が気ではないのだが、自分の言葉を反芻しても、龍太郎自体を貶めた言葉を使った訳ではなく、沈黙の意味がわからない。
「そろそろ、冷えてきません?場所を移動しましょう」
美緒がやっと掛けた言葉に、龍太郎ははっとしたように顔を上げた。
「ごめん、ぼーっとしてた。軽く何か食べようか。さっき言ってた、もつ煮ってところに行く?」
あたしに対して不機嫌なわけじゃないんだ、と美緒はほっとする。少なくとも、すぐに帰ろうと言わないのだから、気分を害しているのではない。
「駅ビルに何かあります。そちらの方が、動きやすいです」
「じゃ、そうしようか」
並んで歩き出すと、会話が戻ってきた。
「好き嫌いはある?」
駅の中にあるハードロックカフェに入り、軽い夕食にした。美緒が頼んだのはピザだったのだが、途中で龍太郎に「シェアしてください」と言いはじめた。
「どうしたの?『たぬきや』の鮪丼を食べる人が」
「入らなくなっちゃって。どうしたんだろう」
困ったように美緒は小さな声で言った。
「具合悪い?歩かせたから、疲れちゃったかな、ごめん」
「違います。それは楽しかった。篠田さん・・・じゃない、龍太郎君も疲れたんじゃないですか?」
慌てて言い直した表情がかわいいと思い、龍太郎の表情は和んだ。
「俺は男だし、仕事も現場が多いからさ。名前、やっぱり呼びにくい?無理しなくていいや。ゆっくり慣れて」
こんな顔するんだ!
美緒を覗き込んだ顔に浮かんでいるのは、やわらかくて懐かしい大人の表情だ。どきん、と心臓が大きな音を立て、美緒の視線は龍太郎の顔の上で止まった。
「美緒ちゃん、やっぱり疲れちゃったんでしょう。帰ろうか?」
正しく割り勘して駅の改札から一緒に入り、美緒を常磐線のホームまで送った。
「また、誘っていいかな」
龍太郎の確認するような視線を避けるように、美緒は俯いた。
「楽しかったです。メールしてください」
手を振って階段をのぼる龍太郎を目で追いながら、何故視線を返さなかったのかと美緒は後悔していた。