let fall to you 3
国立科学博物館の中は、意外に混雑していた。いくつかに分かれた館内は、方向を見失うと何を見ていいのかわからなくなる。
「博物館に来たら、恐竜の骨を見なくちゃ気が済まない」
そう言う美緒に従って、龍太郎は勝手のわからない館内を歩く。どうも、大きな生物が好きらしいと見当がつく。
大きな生物・・・ダメじゃん、俺!
フロアマップを片手に動き回り、屋上のハーブガーデンに到着すると夕暮れ近かった。
「あ、残念。お天気の良い昼間だと、あっちがわのソーラーパラソルが全開で綺麗なんです」
「じゃ、次はそういう時に来よう。そろそろ閉館でしょ?」
閉館30分前だ。
「西郷さんの方でライトアップしてるみたいだから、見に行かない?時間、大丈夫?」
中学生にだって早い時間だ。
「大丈夫です」
暗くなった上野公園の中を、並んで歩く。「恋人たちの森」と銘打ったイルミネーションを辿って見ている親子連れやカメラマンに混ざって、カップルも目立つ。前を歩くカップルに、龍太郎はふと目を留めた。男が女の肩を抱き、女は男に凭れ掛るように歩いている。
あれ、俺はできないんだよな。
龍太郎の身長と腕の長さでは、女の肩に腕を回すと必然的に顔が自分の真横に来てしまう。
大きいものに寄りかかる安心感が、俺にはない。
そう思うだけで暗澹たる気分になるのは、過去のいくつかの失恋の理由だったからだ。
動物型のイルミネーションにはしゃいでいた美緒は、隣の雰囲気が重くなったことに気がついた。
「篠田さん、どうかしました?」
「・・・罰金。俺、馴染みにくい?」
「そうじゃないんです。慣れなくて」
イベント会場で立ち止まるには、妙な雰囲気になった。
「慣れないって?俺に慣れない?」
「じゃなくって」
これを言ったら、他の意味に取られるかも知れない。でも、他に表現のしようがない。
「男の人とふたりで出歩くことに慣れないんです」
男の人。その言葉に慣れないのは龍太郎だ。今まで中性的だの可愛らしいのと散々言われ続けて、それを修正するために必死だった。この女の子は、まだそんな部分など見てもいないのに、自分のことを「男の人」だと言うのだ。一番のコンプレックスは、この子に意味を持っていなかった。
やられた。
龍太郎の沈黙が何を意味しているか、美緒はもちろん知らない。