let fall to you 2
「誘っといて悪いんだけどさ、俺、上野ってまったく不案内なんだよね。行きたい場所、ある?」
「あたしもトンカツ屋とアメ横の中しか知りません。探検してみます?」
アメ横・・・著しく色気に欠ける場所である。未だに闇屋を連想させる小売店が軒を連ねているのは、龍太郎だってニュースで見たことはある。年末であるために人通りが多いのか、それとも普段からなのか知らないが、やけにゴミゴミしている。
とりあえずローストチキンの店に腰を下ろすことに決め、向かい合わせに座る。
「本当は、もつ煮の店なんか行ってみたいんです。女同士だと行きにくいし、ひとりだともっと勇気がいるし」
「じゃ、今度はそれにしよう」
あ、今度って言った。
美緒は胸の中で呟く。この人は不自然なく「今度がある」と思っているんだろうか。
「美緒ちゃん、このあと時間は大丈夫?」
そう聞きながら、龍太郎は美緒の表情を探る。不愉快な要素があれば、ここで「予定がある」と帰ってしまうだろう。
「時間があれば、動物園と美術館以外の所に案内して欲しいんだけど」
「私も知っているのは、それプラス博物館くらい」
「じゃあ、そこ。アカデミックしよう」
席から立ち上がり、伝票を手に取る。
「払いますっ!」
「カラダで払う?」
普段のやりとりのベタな冗談だ。上司に言われたって、セクハラだなんて言わずに切り返せる。なのに。
Bomb!弾けた顔色に一番驚いたのは美緒自身で、口元を押さえたまま、一度立ち上がりかけた椅子に再び腰を落とす。
「・・・美緒ちゃん?」
肩に置かれた手に、美緒はますます顔が上げられなくなった。
まずいっ!高校生じゃあるまいし、こんな冗談を聞き流せないほど純情じゃないっ!
「ごめん、こういうジョーク、ダメだった?」
予想外の美緒の反応に、龍太郎は慌てた。
「謝るから、顔あげて」
悪くない人に謝らせちゃいけない、と美緒は焦る。
「篠田さんのせいじゃありませんっ!」
慌ててあげた美緒の顔は耳まで朱の色で、視点の定まらない涙目だ。
「なんか、違うツボに入っちゃったみたいで。やだもー、なんでぇ?」
もう一度頬を押さえて下を向く美緒を見下ろして、龍太郎は肩に置いた手を引っ込めた。
やばい。今の顔でやられちゃったかも――
龍太郎がそう思っても、美緒はもちろん気がつかない。
「篠田さんじゃないでしょ、罰金」
・・・頼むわ柴犬、もう少し懐いてくれ。