begins to move 4
さっきから、どうもドツボな気がする。何で笑われなきゃならないの?あたし、変なこと言ってないよね。
目の前の水槽を眺めながら、表情に困っているのは美緒である。水族館は好きだ。熱帯の華やかな魚も、北の暗い海も好きだ。
だけど――ねえ?また、笑われる気がする。
龍太郎が笑おうと待ち構えているわけではない。逆に隣の顔が綻ばないので、どうフォローしようか思案中である。
明るいフロアでアマゾンの魚を見ていた時に、美緒は突然話しはじめた。
「アロワナとかガーとか、ペットショップで売るのって犯罪だと思いません?」
「はい?」
アロワナはわかる。目の前に泳いでいるから。ガーとは何ぞや?
「売ってる方は大きくなるスピードを知っているのにそれを言わないし、買う方は研究もしないで買う」
水槽の中のアロワナを目で追いながら、龍太郎は美緒の話を聞いていたが、知らないものは理解できない。
「ごめん。まずガーってのが何だか説明してくれる?」
※古代魚・ワニみたいな顔してます。興味があったらググってください※
ものすごくしっかり理解できたことはある。やっぱり緊張しているということ。
柴犬だ。かわいくて頑丈で、意外なほど警戒心が強い。
笑ってはいけない。
柴犬の性格っていうのは、飼い主の育て方に左右されるのである。飼いたいっ!とか思っても、責任を持って育て上げる覚悟がない者は、飼ってはいけない。まあ、動物全般すべてについて然るべきではある。今、龍太郎の目の前には、龍太郎とほぼ同じ程度の体格の柴犬が、首輪も付けずに自分の方を窺っている。
何故、誰にも飼われていないのだろう?
答えは簡単。犬と違って現金売買されないからだ。そして、犬と違って飼い主を選べるからだ。
あたし、なんか今の発言、すっごく唐突だった気がする!
美緒の頭は、またジタバタしはじめる。何か話さなければ、と思って出た言葉だったのだ。
友達!友達!新しい友達だってば!落ち着け、あたし!
何もここで「あーんなことやこーんなこと」の展開があるわけはないのだ。美緒は龍太郎の横顔に、ちらりと視線を走らせる。色白の顔にサラサラした髪。でも、足の運びも手の仕草も女の動きとは違う。仕事上のやりとりではなく、楽しみや感情を今交流しようとしている人は―――
「美緒ちゃん?水族館嫌いだった?」
「いいえっ!水族館、大好きですっ!楽しいですっ!」
考えんな、あたし!