boy meets girl 2
「フォレストハウスさんって、女の人も現場に出るんですか」
そう声をかけてきたのは、取引先の空調設備会社「エア・トラッド・ジャパン」の営業、津田だった。龍太郎よりも丸々頭ひとつ分デカい。
「先刻名刺渡しましたよね。龍太郎なんて名前の女がいると思います?」
確かにバタバタと挨拶したので、声を出さなかった記憶はある。思い切りよく見降ろされ、まさに上から下まで見回されてから「すみません」と小さな声で詫びが入った。いくつか歳上であろうその相手に頭を下げさせたのだから、腹が立とうがどうしようが、こちらも頭を下げなくてはならない。
「よく言われちゃうんですよ。ツラもこんなですし」
「あははっ。本当ですね。男にしておくの、もったいないようですねえ」
見降ろして笑うな。ボディーブローかますぞ?
龍太郎は握りしめた拳を開く。怒っても仕方ない。相手はバカにしたり貶したりしているのではないのだ。
龍太郎の会社の入っているオフィス・ビルは本館と別館が渡り廊下で繋がった形のつくりである。別館にどんな会社が入っているかは知らないが、ビルの逆側に出るために、時々渡り廊下を通って別館のエレベーターを使う。
その日は珍しく、内勤日だった。昼食をとるため、龍太郎は同僚たちと別館のエレベーターに乗り込んでいた。雑居のオフィス・ビルなので、見たことのない人間は多数いるし、その中に女の子の集団がいてもおかしい訳じゃない。
うっ!カワイイ!
知らない集団の中に思いっきり好みのタイプを発見し、ひそかに観察していると、急に目が合った。慌てて逸らす。集団のランチの相談はまとまらないらしく、なにやら意見を出し合っている。
「あたし、『たぬきや』で鮪丼がいい」
龍太郎の視線の先が主張する。
「え?あそこ、盛りが良すぎない?食べきれるのなんて、あんただけよ」
「あそこなら、大盛とかおかわりとかしなくていいもん」
『たぬきや』は、どちらかと言えば客層が男向けの、量の多さが売り物の店だ。中でも鮪丼は、男でも満足する量で人気がある。龍太郎含む三人で、これから行くところだ。あの普通なら特盛りと言われる量を、この女の子が嬉しそうに食べるのか。
見たいっ!
「あんたの胃袋になんか、ついていくヤツはいないっ!」
好みの女の子は集団の中に巻き込まれ、龍太郎の目的地とは違う場所に連行されていった。あーあ。




