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begins to move 3

 龍太郎にしてみれば、大した提案ではないのだ。合コンの席ですら、隣の女の子は名前で呼ぶのだから。にもかかわらず。

 俺、何か慌てさせるようなこと、言った?

「だって篠田さん、歳上じゃないですかっ!」

「二歳くらい、誤差のうちでしょ。見逃してよ」

 えーっとあの人、なんて呼んでたっけ。

 美緒は記憶の中から引っ張り出す。

「・・・篠ちゃん?」

「却下。そう呼ぶのはフジだけだし」

 それってつまり、名前で呼べってこと?

 高校卒業以来、合コンの後のお茶程度を抜かすと、プライベートで男と一対一で出歩いたことなどないのだ。名前で呼べなんていうのは、あまりにもハードルが高すぎる。

 鈴森のバカっ!こんなこと想定外だよっ!


「松山さん?何か気に障った?」

 龍太郎が声をかけた時、美緒はふっと自分なりに正気に戻った(つもり)らしい。

 自分のことは名前で呼べって言っといて、あたしは「松山さん」?それって、なんて言うか。

「不公平っ!」

 意味の理解できない龍太郎の視線が、美緒の顔の上で止まった。

「あたしに『篠田さん』って呼ぶなって言っといて、あたしを『松山さん』は不公平じゃないですか」

 つい何秒か前まで困った顔をしていたくせに、真面目な顔で主張する美緒はやけに堂々としていた。

 やっぱりこの子、なんかすっごくヘン!

 腹の底から浮いてきた泡が、抑えきれずに笑い声になった。


「あたし、何かおかしなこと言いました?」

「おかしくないです。そっちが正しい」

 笑いがおさまらないまま、龍太郎は片手で詫びる。

「龍太郎でも、龍ちゃんでも龍君でもいいです。呼びやすい呼び方で」

 そう言いながら、ベンチから立ち上がった。美緒もつられて立ち上がる。

「じゃ、中に入ろうか、美緒ちゃん」

「はい、えーっと・・・龍太郎さん」

 美緒にしては精一杯頑張ったつもりだったのだが、すぐに訂正が来た。

「龍太郎さんって呼ばれると、なんかすっごく年寄りになった気がする。せめて、君にして」

「だって、あたし目下だし」

「だから、そこは見逃してよ。頼むから」

 融通、皆無?

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