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混雑するサンシャイン通りを並んで歩き、サンシャイン60の奥のエレベーターに乗り込むまでの美緒は、どう見ても挙動不審だった。やたらキョロキョロしているかと思えば、龍太郎の横顔の気配を伺っていたりする。
やっぱり気が進まなかったのかな。
会ったばかりでそれを聞くのは、何かおかしいような気がする。つられて龍太郎まで挙動不審のまま、水族館の入口に辿り着いた。
ポケットからチケットを取り出し、入場口を通って進もうとした時、龍太郎のMA-1の裾が引っ張られた。
「チケット代、払います」
何を言い出されたか理解できず、龍太郎は美緒の顔を凝視した。大真面目である。
「えっとね、松山さん?」
「はい」
「チケット、タダ。新聞の販促品。だから払ってもらうものはないの」
「はいっ!」
そこで、やっと思い当たることが浮かぶ。
もしかして、緊張してるとか?まさか。はじめて会ったわけでもないのに。
自慢にもならないが、龍太郎とふたりで歩いて、女の子が緊張するなんていう事態は、中学生頃の小柄さが目立たなかった時期だけだ。その後、まわりの友人たちが男臭くなるにしたがって、女の子たちは龍太郎を警戒しなくなった。姉がいるので、女の子と話すのに構えたところがないのも一因かも知れない。
「魚見る前に、ちょっと座ろうか」
アシカショーの時間にはまだ間があるらしく、吹きさらしのイベント会場で龍太郎は暖かい缶コーヒーを美緒に渡す。美緒はおとなしく受け取って、両手で缶を握った。
なんで水族館に入ってすぐにお茶?あたし、何か失礼なことした?
失礼なことをしたかという発想そのものが、どこか間違っているのだが、それ以外に考えることができない。
「魚、見に行かないんですか?」
「その前に、ひとつ提案。イヤだったら拒否権発動してね」
龍太郎は隣に座って腰を屈め気味にして、美緒の顔をすくいあげるように上目で見た。
うわ、反則的にかわいい!
そう思う美緒の表情を確認しながら話しだす。龍太郎だって生まれてからずっと、この顔とつき合って来ているのだ。女の子にウケる視線の使い方のひとつくらいは、知っている。かなり不本意ではあるが。
「仕事じゃないから、『松山さん・篠田さん』はイヤじゃない?友達をさん付けで呼ばないでしょ?」
そこで距離を縮めるつもりだった。