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begins to move 2

 混雑するサンシャイン通りを並んで歩き、サンシャイン60の奥のエレベーターに乗り込むまでの美緒は、どう見ても挙動不審だった。やたらキョロキョロしているかと思えば、龍太郎の横顔の気配を伺っていたりする。

 やっぱり気が進まなかったのかな。

会ったばかりでそれを聞くのは、何かおかしいような気がする。つられて龍太郎まで挙動不審のまま、水族館の入口に辿り着いた。


 ポケットからチケットを取り出し、入場口を通って進もうとした時、龍太郎のMA-1の裾が引っ張られた。

「チケット代、払います」

 何を言い出されたか理解できず、龍太郎は美緒の顔を凝視した。大真面目である。

「えっとね、松山さん?」

「はい」

「チケット、タダ。新聞の販促品。だから払ってもらうものはないの」

「はいっ!」

 そこで、やっと思い当たることが浮かぶ。

 もしかして、緊張してるとか?まさか。はじめて会ったわけでもないのに。

 自慢にもならないが、龍太郎とふたりで歩いて、女の子が緊張するなんていう事態は、中学生頃の小柄さが目立たなかった時期だけだ。その後、まわりの友人たちが男臭くなるにしたがって、女の子たちは龍太郎を警戒しなくなった。姉がいるので、女の子と話すのに構えたところがないのも一因かも知れない。

「魚見る前に、ちょっと座ろうか」


 アシカショーの時間にはまだ間があるらしく、吹きさらしのイベント会場で龍太郎は暖かい缶コーヒーを美緒に渡す。美緒はおとなしく受け取って、両手で缶を握った。

 なんで水族館に入ってすぐにお茶?あたし、何か失礼なことした?

 失礼なことをしたかという発想そのものが、どこか間違っているのだが、それ以外に考えることができない。

「魚、見に行かないんですか?」

「その前に、ひとつ提案。イヤだったら拒否権発動してね」

 龍太郎は隣に座って腰を屈め気味にして、美緒の顔をすくいあげるように上目で見た。

 うわ、反則的にかわいい!

そう思う美緒の表情を確認しながら話しだす。龍太郎だって生まれてからずっと、この顔とつき合って来ているのだ。女の子にウケる視線の使い方のひとつくらいは、知っている。かなり不本意ではあるが。

「仕事じゃないから、『松山さん・篠田さん』はイヤじゃない?友達をさん付けで呼ばないでしょ?」

 そこで距離を縮めるつもりだった。


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