get to know 2
「うちの会社、新入社員教育で2週間合宿するの。支店採用も合わせて、20人くらいで。まだ名前も知らない奴と同室でさ、当然性格なんかわからない状態じゃない」
うんうん、と相手ふたりは頷く。
「篠ちゃんって、女の子から見てもとっつきやすいから、初めの頃は本当にアイドル状態で女の子に囲まれてたわけ」
鈴森が「あー、わかるー」と相槌を打った。
「で、その中にすっごい可愛い子がいたの。なんかね、連れて歩いたら自慢だぞみたいな子」
つまり、研修所でプチなハーレム状態だったのである。
「もちろん篠ちゃんが女の子に媚びてたわけじゃないし、却って困った顔してるのはわかってたんだけど、ひとりで女と仲良くしやがって、とか思う奴もいるわけさ。まして狙いをつけた子が、自分よりも篠ちゃんにべったりで、面白くないわけ。はじめのうちって気ばっかり使って、本音なんか見せないから、篠ちゃんは見た目でずいぶん舐められてたし。しかも、研修の成績はやたら良かったしね」
藤原は話を続けた。
「距離感が学生の時のまんまの奴もいてね。そうすると、弱々しく見えて成績のいい篠ちゃんは『いじりたくなる』人なんだよね。男は四人部屋でさ、俺も一緒だったの。だからまあ、僻みの入った小さいイヤガラセは気がついてて、それは我慢できる範囲だって踏んで、何も言わなかった」
「うわー、子供みたい」
「研修が明日で終わるって日にね、そのすっごい可愛い子が篠ちゃんに告ったって噂が流れたの。本当に学生ノリでしょ?彼女は支店採用の子だし、篠ちゃんはデマだって言ってるけど、真に受けたのが彼女に気があった奴。同室でね、結構ガタイのいい奴なんだわ。それが夜になってから、酔っぱらった振りして篠ちゃんに絡むわけ。成績がいい奴はとか顔のいい奴はとか言って、頭小突いてみたり。篠ちゃんもはじめは相手してなかったんだけど、途中から顔色は変わってきてた」
「格闘?」
「格闘じゃ確実に負けるでしょ。体重が1.5倍の相手だし。でも、そうなるとこだったけど」
鈴森は面白そうに、美緒は複雑な顔をして聞いている。
「篠ちゃんが反応しないもんだから、相手はエスカレートしたんだね。『おまえ、性同一障害とやらで後付けで男になったんと違うか?』なんて、酔ってる振りはしてたけど素面だったね、あのセリフは」
「そんなの、両方に対して失礼じゃない!」
藤原がその相手でもあったかのように抗議の声を上げる美緒を手で抑え、話が続いた。
「それ、篠ちゃんがまったく同じこと言った。あいつが座り込んでる横に篠ちゃんが立った時、あいつは無意識に体格で威圧しようとして立ち上がったんだ」
もう、オチは見えている。
その時、藤原の頭に薄青いシャツの腕が巻きついた。綺麗に極まったヘッドロックの形になる。
「俺がいない時に勝手に俺の話してんじゃねえよっ!てめえはよっ!」
ギブ!と手を外させた藤原は結論だけを大急ぎで付け足した。
「あんな綺麗に入ったボディーブロー、はじめて見たね。その後、同じ部屋の奴とかたっぽずつ抑えるのが大変だった」
まだ伸びようとする腕を避けながら、藤原は笑った。
「篠ちゃんって、こういうヤツ」