get to know 1
ビルの別館の入り口で待っていたのは、ハーフパンツにニットコートの美緒と、淡い色合いのスカートに巻き髪の女の子だった。
「とりあえず自己紹介はあとにして、行こうか」
行き先は、何の芸もなくビルの近くの居酒屋である。男ばかりで行く時よりも、少し小綺麗な場所を選びはしたが。
席について、簡単に自己紹介をしあう。美緒と一緒にいたのは鈴森で、「いわゆる女の子」だなと龍太郎は思う。一方、美緒は藤原と龍太郎を見較べて、「外見が真逆で面白い」と思っていたりするのだが、双方それを口に出すほど分別がないわけでもない。
「松坊がお世話になってます」
「坊なの?松山さん」
「本人、自分の性別がわかってないようなところがあって」
美緒が唇を尖らせて、そんなことないもんと呟く。
やっぱり、かわいい。
龍太郎の頬は少し緩んだ。
当たり障りのない会話で座をもたせたあと、美緒が手洗いに立ったときのことだ。
「篠田さん、もしかして松坊だけを誘ったつもりだったんじゃないですか?」
鈴森が龍太郎の顔を覗きこんだ。
「あの子って普通じゃない鈍さだから、はっきり言わないとダメですよ。見かけは悪くないから、合コンなんかであきらかなアプローチかけられるんだけど、気がつきませんから」
「あきらかなアプローチって?」
「常に隣に移動してくる人っているじゃないですか。それを偶然だと本気で思ってるんですよ。松坊が興味示した話題を一生懸命に掘り下げる人なんて、『趣味が会う人がいて良かった』で片付けちゃう。話しこんでるな、これは上手くいくかな、とかまわりが思ってても『終バスに乗り遅れるから』なんて連絡先教えないで帰っちゃうし。本人、悪気があるわけじゃないから始末が悪いんです」
藤原が笑い出す。
「それ、どう考えても拒否られたようにしか見えないでしょ」
「まあ、今日は鈴森さんとも知り合えたし。これからよろしく」
龍太郎は、とりあえず「アイドル顔」といわれる顔で笑ってみせた。
入れ違いで龍太郎が立った。
「仲いいんですね。全然タイプが違うように見えるのに」
美緒が藤原に話しかける。
「タイプが似てるからって仲がいいわけじゃない。鈴森さんと松山さんも違って見えるよ」
「松坊と同じタイプなんていないっ!」
鈴森が混ぜ返す。
「篠ちゃんはああ見えて直情径行だからさ、同じタイプの人間とじゃ戦っちゃうんじゃない?」