Encounters you 3
美緒が財布をバッグから引っ張り出している間に、龍太郎はさっさと会計を済ませて店の外に出てしまった。
「払いますっ!」
「つきあってもらったんだから、いらないよ」
そんなわけには・・・と美緒が言いかけるよりも前に、龍太郎は歩き出した。仕方がないので、後を追って歩く。
「あ、じゃあさ、お茶奢って」
龍太郎が指差した先は、チェーンのコーヒーショップだった。
あまりに簡単に誘導できてしまうので、龍太郎にはずいぶん余裕ができる。遊びなれた女の子が、誘われたフリをしているわけではないらしい。龍太郎の目の前に座っている女の子は、改めて緊張した顔をしているのだ。
柴犬かなんか手懐けてるみたい。
「この前担いでたダンボールって、すっごく重そうだったけど」
「重かったんですよ。あのあと、首の筋がヘンで」
「エレベーター使えば良かったのに」
「階段のほうが早いと思って無精したんです。途中で後悔したけど担いだ後だったし」
「担ぐって行為自体が、女の子じゃ珍しいでしょう」
「だって、腰で支えたら階段下りられないし、肩なら大丈夫かと思って」
「そんなの、持てないからって誰かに頼めばいいのに」
「え?だってちゃんと移動できたもん。できるのにできないって言えないもん。運んどいてって言われたの、あたしだし」
美緒は口を尖らせた。
やっぱり、なんかすっごくヘン!必死で重いものなんか持たなくても、男に頼めば苦もなく運ぶだろうに。
「松山さんひとりで運べなんて言われなかったんじゃない?」
「そう言われると、そうかも」
大真面目に頷く表情に、なんとなく性格の一端を垣間見たようで、龍太郎は吹き出した。
「何で笑うんですか」
そう言いながら美緒も吹き出し、ふたりで大笑いする。緊張はほぐれたらしい。
「メアド、教えて」
「あ、じゃあ交換しましょう。篠田さんのメアドもください」
データを交換してコーヒーショップを出て、駅まで歩いて、違う路線の電車に乗った。
かわいい顔してるんだけど、なんだか不思議な子。
龍太郎はMA-1のポケットから携帯電話を取り出し、電車の中でアドレスを確認した。
見た目は頼りないけど、仕草も喋り方も、ちゃんと大人の男の人。
美緒は地下鉄の窓に映った自分の顔を眺めながら、龍太郎の細い指を思い出していた。




