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青色が食欲減退色なのは、神様がそう造ったから。

掲載日:2026/09/10


「空の青色と海の青色の原理が違うのは、

 僕がそういう風に世界を造ったからだ」

 夏、だというのに。

 ホットのブルーマウンテンを啜り。

 彼はそう言った。


「僕らは青色を食べる情報生命体で。

 地球は青色の養殖場なんだ。

 僕らの世界で情報絶滅してしまった。

 青色発光ダイオード、青色の薔薇、」

「ちょぇちょっ、ちょっと待って、」


 晴天に霹靂の告白を。

 私が遮ると、彼は、黙った。

 喫茶店『アナ・ガルーバヤ』の店内に、

 ブルース(昭和歌謡)が小さく流れる。

 ブルーハワイのカキ氷の下の方から。

 トンネルを掘るように食べてた手を止め、


「青色を食べる?」

「そうだ」

「青果とか?」

「それは、基本緑黄色野菜」

「青魚?」

「それは、銀色」

「青島ビール」

「黄色、もしくは琥珀色」


「目に青葉山ほととぎす初鰹」

「鰹は赤身魚だ」

「アオリイカ」

「白だよ。採れたては透明だし。

 生きてるうちは、色々な色に、」

「じゃあ、タコ」

「た、タコ? タコも色々な色になるけど。

 でも、タコは赤でしょ。イメージ的に」

「いやいや、タコは青色なんだって」

「どうして?」

「ターコイズブルー」

「なるほど」

 と彼は感心した。


「どう? 目から鱗?」

「いや、晴天の辟易。君はいつだって……。

 僕の話を真面目に聞く気が、」

 青汁を飲んだように顔を顰める。

 そうして青息吐息。

 ため息を一つ。ついて。


「別れよう。僕達」

「えっ、青色を食べる情報生命体って、

 どういうこと?

 えっ、この世界を造ったって、

 どういうこと?

 えっ、えっ、神様? 宇宙人?」

「おまあ、会話がめちゃくちゃだっ。

 話の筋を立てろっ。この下等生物がっ」

「そんな、青筋を立てなくても」

 怒り怒髪天。青天井に怒る彼。


「ええそうね。いつもそう。

 私が悪いの。私のせい。

 ああ、このせいって青のせいじゃなくて。

 そういえば責任の責って青に似てない?

 そうね。責任は全て私にあるんでしょ。

 全部全文私のsayで」

 と、私は被害者ぶる。


「はあ。頼む。頼むよ。

 頼むから僕の話を聞いてくれ」

「請うってわけだ」

「請い願います」

「分かった。じゃあ、静かにしとく」

「頼むよ。本当に」

 情けない顔をしていた彼は。

 精神統一をして、青眼の構えのよう。

 私に向き直り。コーヒーを呷り。


「空の青色と海の青色の原理が違うのは、

 僕がそういう風に世界を造ったからだ。

 僕らは青色を食べる情報生命体で。

 地球は青色の養殖場なんだ。

 僕らの世界で情報絶滅してしまった。

 青色発光ダイオード、青色の薔薇とか。

 失ってしまった青色を復活させるため。

 君たち人類を造り出したんだ。

 僕達の姿に似せてね。

 そう言った意味では、神様に近いのかも。

 あっ、でも違うところもあって。

 例えば人間だと青色は食欲減退色だろ。

 あれは人間が青色を食べてしまわないよう。

 いわばセーフティーネットみたいなもので。

 というかそもそも青色とは何か?

 青色ですって青色申告するとかじゃなく。

 正直さっき青果とか青魚は青じゃない。

 桃李言葉に冠が来て買い言葉で言ったけど。

 あれも実は青色で。

 そもそも僕らは情報生命体なわけで。

 そこに青色というラベリングがしてれば。

 そのデータは青色ということになって。

 だから例えば青春という言葉があって。

 そういった行動からも栄養は摂取できて。

 もちろんプラスの感情だけじゃなくて。

 って、聞いてる? ねえっ!」


「……寝えって、言ってた?」

「言ってないよ。言ってない。

 ちょっと意識がどっか行ってなかった?」

「……恩讐の彼方に」

「そりゃ……、青の洞門だ」


「だって。話が長いんだもん。

 なになになんだっけ結局?

 青い鳥は家に居たから。

 長い長い旅路は全て無駄でしたっ。

 て話?」

「人の告白を無駄話扱い。

 君は本当に可愛くないなあ」

「可愛いけど? 青文字系だからかな?」


「つまりは、別れようって話だよ」

「やだ」

「僕達。もう。終わりにしよう」

「やだやだやだ」

「やだも青田も、もう買えないよ」

「じゃあ。死ぬ」

「えっ?」


「死ぬから青酸カリ買ってきて」

「む、無理だって」

「じゃあ、青木ヶ原樹海連れてって」

「いやダメだって」

「青、青、青雲は死んだ後だし、」

「そんな無理して死ななくても、」

「あっ、ジャガイモの青い芽っ!」

「緑だって、」

「でも、青いソラニン」


 しゃく、とカキ氷の崩れる音。


「……どう? 美味しかった?」

「……うん」


「君が別れようって言ったら。

 私がどんなにブルーな気持ちになるか」

「ごちそうさまでした」


「ねえ」

「何?」


「本当に、歳。取らないんだね」

「ああ、これでも。神様だからね」


「じゃあ、いつまで経っても青二才。

 尻の青いガキのまんまなんだ」

「神をガキ扱いするのは、君くらいだよ」


「でも。良かった」

「どうして?」

「だって、私より先に、死なないんでしょ」




 私は彼に、マリッジブルーを食べさせた。




 私は彼に、マタニティブルーを味わわせた。




 そして。

 そして、そうして。




 青菜に塩。すっかり萎れた。

 私の青い手を、まだ青年の彼が握る。

「紺青の別れって……、やつだねえ」




 青は、きっと。愛より出でる。


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