幕間 月光の観測者と、予期せぬ「神回」
天界の片隅。恋を司る月の女神は、退屈しのぎに地上を覗き込んでいた。
親しい神から「面白い子たちを送り込んだから、たまに気にかけてやってくれ」と頼まれてはいたものの、これまでは最低限の夜道を照らす程度の加護に留めていた。
「さて、今夜の聖域は……あら、何かしら?」
女神の瞳が、凍てついた泉の上に立つ二人を捉える。
そこから始まったのは、神の長い歴史の中でも目にしたことのない、あまりにも鮮烈で、あまりにも「可愛い」旋律の舞。
「ちょっ……! 何、あの踊り! あの歌! 構成力が神がかってるじゃない!?(AIですから)」
「それにあの動き……エルフの肢体にシルフの加護をあんな風に乗せるなんて……最高に贅沢な使い道だわ……!」
女神は身を乗り出した。
ただ、一人の男のためだけに、全リソースを注ぎ込んで「恋する少女」を演じ、踊り狂うリア。
いつもの高潔なエルフが、歌詞に合わせて首を傾げ、あざとく跳ねる。
そして、決定打が放たれた。
「……っ!! 今の投げキッス見た!? エフェクト追加よ、エフェクト!! ウィスプたち、もっと盛り上げなさい! ほら、彗星みたいに尾を引いて!!」
女神の興奮に呼応し、聖域の精霊たちが狂喜乱舞する。
リア本人はただ愛のために踊っていただけ。けれどその純粋すぎる熱量は、女神にとっての最高級の供物――いわゆる「尊みの極み」として捧げられてしまった。
「ああああ、もう見てられない……尊すぎて直視できないわ! でも見なきゃ損だわ……!」
女神は頬を染め、悶絶しながら指の間から地上を凝視する。
最後の「選んでね」という上目遣いに、女神のオタク心は完全に決壊した。
「決めたわ。あの子たち、私の『推し』にする!!」
「そうだ、今の舞を正式な奉納ってことにすればいいわね! そうすれば、もっともっと特別な加護を盛れるんだから!」
女神は速攻で天界の権能を使う。
それは単なる幸運ではない。
リアの身体能力を常時底上げし、二人の運命を「ハッピーエンド」へと強力に引き寄せる、月の女神の全面的なバックアップ。
「……ずっと、ずっと見ていたいんだから。誰にも邪魔させないわよ。魔王? 勇者? 私の推しの邪魔をするなら、月の光で焼き払ってやるんだからね!」
地上の二人が愛おしさに包まれて帰路につく頃。
天界では一人の女神が、録画(記憶)の反芻をしながら、次の「神回」を求めてのたうち回っていた。




