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サラと別れたあと、ルアとミレイアは静かな夜道を歩いていた。
風は穏やかで、先ほどまで暴れようとしていた火の精霊の焦げた気配はもうない。
「……助かったね、サラ」
ルアが呟くと、ミレイアは微かに笑った。
「あなたがいたからです。あの子の願いはとても脆くて、触れたら壊れてしまいそうなほど細かった。でも――あなたは壊さなかった」
ルアは肩をすくめ、冗談まじりに返す。
「壊れた魔道具を直すのが僕の仕事だからね」
ミレイアは小さく首を振る。
「違います。あなたは魔道具を直しているのではありません。人と精霊の心を繋ぎ直しているのです」
その言葉は夜の空気に溶け――
まるで霜夜に灯る灯火のように静かに残った。
◆
路地裏の店へ戻ると、店内に風がざわめいた。
棚や机に眠る魔道具たちが、まるで何かを感じ取ったように震えている。
――来る。
ミレイアは扉の前に立ち、目を閉じた。
「……気をつけてください。
精霊たちの“呼び声”は収まっていません。
いえ――むしろ今、世界がひとつに向かおうとしています」
「ひとつに?」
「はい。
すべての精霊の意識が――“ある場所”へ向かっている」
ルアは静かに息を呑む。
(……そうか。とうとう……)
ミレイアが扉に手を添える。
「――精霊たちは集結し始めています。
あなたを迎えるために。」
◆
扉の音とともに、冷たい夜風が吹き込む。
その風はただの夜気ではなく――精霊の意志を帯びていた。
遠くの空に、淡い光が灯る。
まるで星が降りはじめたかのように、精霊たちの光が夜の上空に集まっていく。
ルアは静かに目を閉じ、そして――ゆっくりと開いた。
「……分かったよ。
ここから先は、ただの“店主”ではいられないみたいだね」
ミレイアは深く頷いた。
「ええ。
――最終の地へ行きましょう。
そこにいる“あの精霊”が、すべての揺らぎの中心です」
◆
ルアは棚に眠る魔道具へ視線を向け、静かに告げる。
「僕が戻るまで……店を頼むよ」
風精霊が瓶の中でそよぎ、火精霊が柔らかく灯り、水鏡が微かに光った。
それは**「いってらっしゃい」**という、静かな見送りだった。
ルアはミレイアと共に、夜の街へ歩み出した。




